神戸市東灘区本住吉神社 山田區地車

皆さんこんにちは。

今回も神戸の地車の記事を書いていきたいと思います。

山田區は本住吉神社の氏子であり地車を持つ地域の中では、最も山手に位置する地域です。
そのため、曳行コースも他の村とは異なります。4日昼に他村と一緒に神社にある小屋を出発しますが、その日のうちに神社に戻ることはせず、地元の公園に留め置きをします。そして、5日の朝に小屋に戻り、渡御に間に合わせるという形を取っています。

地車本体は柏木福平×川原啓秀コンビが生んだ昭和の名車として名高く、非常に良い姿見と彫刻を持つ地車です。

それではご覧ください。

神戸市東灘区本住吉神社 山田區地車

◆地域詳細
宮入:本住吉神社
小屋所在地:神社境内

◆地車詳細
形式:神戸型
製作年:1931年(昭和6年)
購入年:1934年(昭和9年)
大工:【淡路】柏木福平・吉田國一
彫刻:【井波】川原啓秀
改修年①:1995年(平成7年)
改修大工①:平間利夫
改修年②:2013年(平成25年)
改修大工②:橋元春行
改修彫刻②:高橋聖峰・高橋孔明

◆歴代山田區地車
・初代(先々代):明治10年頃購入するも、大正時代の地車曳行禁止令により売却。
・2代目(先代):昭和の初めに淡路より購入。
・3代目(現地車):昭和6年新調、昭和9年購入。

参考)
製造年・購入年・歴代山田區地車について
住吉だんじり資料館の掲示より


平成7年・平成25年の改修について
山車・だんじり悉皆調査 http://www5a.biglobe.ne.jp/~iwanee/

姿見

左が前方、右が後方

いくつかの改修を受けていますが、オリジナルから大きく姿を変えていません。
昭和6年に淡路の柏木福平師と当時井波から神戸の脇ノ浜に移り住んでいた川原啓秀師のコンビで製作されました。

余談ですが、当時の日本は満州事変や五・一五事件等があった時期で、軍がどんどん台頭して政治を乗っ取っていった激動の時代にこの地車は生まれています。

斜め前より

改修により、柱や梁にアフリカ産のウエンジという木材を使用しているのが特徴。
同じ氏子の吉田區もアフリカ産のブヒンガという木材を使用しており、この地域特有の個性の出し方と言えそうです。

山田區の地車も激しい戦火を乗り越えて生き抜いてきています。

破風

改修により破風は作り変えているようですが、違和感は全くありません。
テリが効いていますが、しっかりとむくりがついており、非常に格好いい破風形状です。

鬼板

上から
男屋根前方:『獅子噛』
男屋根後方:『獅子噛』
女屋根:『獅子噛』

川原啓秀師と言えば、やはり人気のポイントは獅子噛だと思います。

ほぼ同時期である昭和5~7年に製作・改修された地車は他に、元・泉大津市元町(新調) 元・神戸市高羽(新調) 神戸市吉田(改修) 先代・神戸市野寄(新調) 大阪市野田恵美寿(新調)があり、顔の表情は先代の野寄が最も近そうに見えます。

神戸市御影中之町(改修)や灘区上野(改修)は、これらの地車達よりもう少し前の時代でしょうか。俯き加減の変化はかなり言われている話ですが、鬣の巻数が片側3つ→片側5つへ変化しているのも時系列のヒントになり得るかもしれません。

元・泉大津市上之町 先代・神戸市浜石屋 先代・神戸市上石屋はもう少し後の昭和12年の作品となります。

懸魚・桁隠し

男屋根前方
懸魚:『飛龍』
桁隠し:『麒麟』

女屋根
懸魚:『鳳凰』
桁隠し:『朱雀』

懸魚や桁隠しは上地車らしく、獣の題材で統一されています。

車板・枡合

男屋根前方
車板:『宝珠を掴む青龍』
枡合:『薄田隼人勇戦』

枡組があり、車板と枡合でしっかりと部材及び彫刻の題材も分けられています。

女屋根
車板:『天乃岩戸』
枡合:『神功皇后 応神天皇平産す』

やはり地車に日本神話の題材は欠かせません。

枡合左下に川原啓秀師の銘がありますので、お見逃しなく。

枡合

右面男屋根側:『川中島の合戦』

右面女屋根側:『加藤清正虎退治』

左面男屋根側:『敦盛呼び戻す熊谷次郎直実』

左面女屋根側:『稲村ヶ崎投剣の場』

昭和に作られた地車ですので、使える題材に制約はなく、源平合戦から戦国時代の題材まで、名場面を自由に選択して彫刻されています。

木鼻

上が右面、下が左面
木鼻:『阿吽の唐獅子』

黒檀が用いられています。

水引幕

水引幕:『珠取り龍』

平成18年に梶内だんじり店にて初代の幕を模して製作されました。
大変立派な作品です。

絵振板

絵振板:『牡丹に唐獅子』

左右共、阿の獅子になっています。

脇障子

脇障子(前方):『獅子の子落とし』

脇障子(後方):『谷越獅子』

個人的に神戸型の脇障子は唐獅子の題材であるのが最も格好良い印象です。
前方と後方で少し場面が異なりますので、よく見てみてください。

見送り幕

正面:『賤ヶ岳の合戦 秀吉本陣佐久間の乱入』

右面:『賤ヶ岳の合戦 加藤清正山路将監組討』

左面:『賤ヶ岳の合戦 福島正則?』

紋等見えないので確証はないですが、他に題材にされるような人物としてはこの人?後ろの建物は賤ヶ岳城でしょうか。

新調当時の幕は今は小屋に飾られています。

勾欄合・縁葛

前方
勾欄合:『唐子二十四孝』
懸魚:『太閤記 尼崎の難』

前方は神戸型にしかない、引き出し舞台が出せる仕様です。

後方
勾欄合:『唐子二十四孝』
懸魚:『太閤記 矢矧橋の出会い』

右面男屋根側
勾欄合:『唐子二十四孝』
懸魚:『太閤記』

右面女屋根側
勾欄合:『唐子二十四孝』
懸魚:『太閤記』

左面男屋根側
勾欄合:『唐子二十四孝』
懸魚:『太閤記 大徳寺焼香』

左面女屋根側
勾欄合:『唐子二十四孝』
懸魚:『太閤記』

勾欄合は唐子二十四孝、縁葛は太閤記で統一されています。

土呂幕・台木

前方
土呂幕:『義経八艘跳び』
台木:『恵比寿』

土呂幕は源平合戦の題材で統一されています。
台木に立体的な彫刻が施されており、猫木の位置に引綱用のアイボルトが取り付けられているのが独特です。

後方:『武者』

後方は扉式です。

右面:『朽木隠れ』

左面:『平景清錣引き』

広いスペースに伸び伸びと武者の彫刻が施されています。
目もガラス目で、川原啓秀師らしい雰囲気がよく出ています。

台木

右面:『玄武』

左面:『玄武』

昼提灯

昼提灯:『中国列仙伝』

昼提灯:『中国列仙伝』

昼提灯は金鱗の作で、地元の建物と仙人の姿が刺繍されたオリジナリティ溢れるものです。

金具

①破風中央:『雲海・波濤に宝珠』
②破風傾斜部・端部:『昇龍・波濤』
③垂木先:『桔梗紋』
④勾欄先:『桔梗紋』 縁葛:『牡丹に唐獅子』

いかがでしたでしょうか。

非常に素晴らしい彫刻を持ち、戦火を乗り越えてきた地車。
今後も変わらぬ姿で活躍し続けて欲しいですね。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です