
皆さんこんにちは。
今月になり、多くの地車の記事を公開しておりますが、知名度の高い地車の紹介をあまりしていなかったので、門真市打越に続き、この地車もご紹介したいと思います。
中殿垣内地車は独特の形状をした地車で舟形や社殿型の両方の要素を持っており、同様の形状のものは他に存在しません。
その豪華なつくりと相野伊兵衛の貴重な彫刻を持つことから非常に価値の高い作品で、十市の数ある地車の中でも目立つ存在です。
橿原市で地車が出るイベントがあった際には高い確率で登場しますので、県外でもこの地車の存在を知る方は多いと思います。
特徴ある地車で、部位別の紹介もなかなか工夫が必要でしたが、分かりやすくご紹介していきたいと思います。
それではご覧ください。
橿原市十市御縣坐神社 中殿垣内地車 ◆地域詳細 宮入:十市御縣坐神社 ◆地車詳細 形式:特殊 製作年:江戸末期 大工:不明 彫刻:相野伊兵衛
姿見

左が前方、右が後方。
どちらも独特の形状です。
前方は一見板勾欄出人形型のようですが、台木が斜め上方に伸びて船体の形状をつくっています。
後方は更に特殊で、中段に庇が設けられており、上下でそれぞれ大きな彫刻が施されています。

側面より
後方で見られた庇は平側にも適用されています。
更に小屋根は平側にも鬼板・懸魚を持つ立派な破風が取り付けられています。

後方より
このような形状の地車は他に存在しません。
破風

箕甲のピッチが狭く、勾配が控えめで幅広の形状です。
どちらかと言えば堺型の破風形状に近い気がします。
枡組

大屋根は二段一手先です。
台輪は堺型で見られる段がついた形状をしています。

小屋根は平側の破風を支持するために広範囲に枡組が組まれています。
大工さんもかなり苦労された箇所であることでしょう。
大屋根鬼板

大屋根
前方:『龍』
後方:『龍』
前方が頭、後方が尾になっています。
大屋根懸魚

大屋根前方:『鳳凰』

大屋根後方:『牡丹』
打越地車の小屋根にも同様の題材が使われています。
小屋根鬼板

正面:『獅子噛』
右面:『獅子噛』
左面:『獅子噛』
小屋根三方に獅子噛が取り付けられています。
小屋根懸魚

正面:『鷲』
右面:『牡丹』
左面:『牡丹』
大屋根後方と小屋根平側は牡丹になっています。
大屋根車板・枡合

大屋根前方
車板:『波濤』
枡合:『宝珠を掴む青龍』

大屋根後方
車板:『唐草模様』
枡合:なし
小屋根車板

正面:『雲海』
右面:『雲海』
左面:『雲海』
小屋根はどれも雲海で統一されています。
大屋根枡合

右面:『吽の龍』
大屋根の枡合は龍で統一されています。

左面:『阿の龍』
木鼻

上が右面、下が左面
木鼻:『阿吽の唐獅子・獏』
大屋根側のみあります、妻側は漠、平側は唐獅子です。
小屋根車板

右面:『唐草模様』
小屋根の庇下の部分です。

左面:『唐草模様』
車内

大屋根側水引幕の内側は乗車スペースではなく、神殿のようなものが設けられています。
花戸口虹梁

花戸口虹梁:『波濤』
出人形・板勾欄

前方
出人形:『飛龍』
板勾欄:『曲水の宴』
大きな出人形はとても目を惹く部分です。

固定方法
下方で固定されており、縁葛からも控えをとっています。

右面
板勾欄:『曲水の宴』
縁葛:『波濤』

左面
板勾欄:『曲水の宴』
縁葛:『波濤』
上流から流した盃が自分のところに来る前に歌を詠み、流れてきた盃を飲む朝廷や貴族の遊びを唐子で表現したものとのこと。
持送り

持送り:『波濤』
土呂幕

前方:『波濤』
中央に穴があり、何とも不思議な形状です。

右面:『波濤』

左面:『波濤』
脇障子

下段:『波濤』
この部分で下方は完全に間仕切られています。まるで岸和田型のようです。
このため、小屋根の下段部分は土呂幕ではなく、三枚板としてご紹介します。

上段前方側:『雲海』

上段後方側:『傘風子・?』
脇障子より後方側は仙人の題材が多く用いられています。
三枚板

正面上段:『控鶴仙人・張果老』
三枚板には大きく仙人の彫刻が施されており、大変見ものです。
控鶴仙人の巻物には銘が書かれています。

正面下段:『黄石公・張良』
こちらも大変良い表情です。
角障子

全体像

後方側:『鉄拐仙人・蝦蟇仙人』
この2人はセットでよく彫刻されていますね。

右面上段:『琴高仙人』
打越地車にも同様の彫刻があります。
非常に大型で印象に残る彫刻です。

右面下段:『波濤に飛龍』

左面上段:『董奉』

左面下段:『波濤に飛龍』
右面・左面とも上段は仙人、下段は飛龍となっています。
摺出鼻

上が右面、下が左面
摺出鼻:『波濤』
端部は鳳凰の顔も表現しているように見えます。
後方妻側下勾欄

下勾欄:『波濤』
旗台はなく、舞台に差すための溝が彫られています。
台木

右面:『波濤』
斜め上方、中央に絞るように台木が伸びています。
舟型のように先端に舵取りが付いている訳ではなく、あくまでも舵取りは後梃子で行うように作られています。

左面:『波濤』
台木の幅を維持したまま上方に持ち上げると荷重が重たくなるため、板勾欄のような薄い材料を上手に組み立てて形作られています。

後方
上方に部材が持ち上がり、船尾を模していると思われます。
金具

①破風中央:『唐草模様』
②破風傾斜部:『唐草模様』
③破風端:『唐草模様』
④平側破風傾斜部:『左三つ巴紋』
⑤垂木先:『左三つ巴紋』
⑥庇:『唐草模様』
⑦脇障子兜桁:『唐草模様』
⑧縁葛端:『唐草模様』
⑨肩背棒端:『中殿・垣内』の文字
⑩車軸
銘

正面上方三枚板にあります。
いかがでしたでしょうか 他所にない唯一無二の形状をした地車で、歴史があり、相野の彫刻が素晴らしく、非常に格好いい地車だと思います。 大阪にはすっかり居なくなってしまった古く・貴重な地車が橿原十市を含め、奈良には沢山ありますので、興味がある方は是非足を運んでいただきたいと思います。 地車が止まっている時間が多いので見物しやすいのも嬉しいポイントの一つです。 最後までご閲覧いただき、ありがとうございました。