田原本町池坐朝霧黄幡比賣神社 市場地車

皆さんこんにちは。

勢いのあるうちに多くの記事を書いてしまおうということで、色々と記事を公開しているのですが、奈良県の地車の記事を一切書いていなかったことに気がつきましたので、過去に撮影した写真の中から気になった地車の一台である市場地車をご紹介したいと思います。

市場地車は数多ある堺型の中でも、堺型地車黎明期・最も古い作品なのではないかと思われる一台です。
その根拠として
①長押・長押上の枡組(俗に言う腰組)等の建築的意匠が多く採用されていること。
②縁葛に彫刻はなく、構造上全く必要ない脇障子や角障子等は存在しない必要最低限の形状をしていること。(後に誕生する地車に比べると色々未発展の状態)
③人物彫刻が文政年間以降に流行した武者絵の浮世絵タッチではなく、非常に大人しめであること。
等が挙げられます。

また、市場地車で試行された特徴として大型の三枚板があり、最終的にこの形態で量産される運命とはなりませんでしたが、後により高い完成度の作品を目指して、尼崎市大官町地車・寝屋川市国松地車・守口市八雲南地車等(いずれも現在の所有町で記載)が製作されることとなります。

それではご覧ください。

田原本町池坐朝霧黄幡比賣神社 市場地車

◆地車詳細
形式:堺型
製作年:文政年間(1818~)以前か
大工:不明
彫刻:服部一門?

姿見

左が前方、右が斜め前より

堺型らしい細身でのっぽな姿見をしています。

側面より

柱は通し柱6本、腰周りのみ+2本の堺型。
勾欄の擬宝珠は8つであることが多いですが、この地車は6つです。

勾欄は後方まで回り込まずに小屋根の柱面で止まっており、前方は俄芝居を披露するためか大きく手前に張り出しています。

破風

私はこの地車を堺型黎明期の一台と考えていますが、破風形状はこの時点で既に後の時代と大きく変わらないものが完成しているようです。

桁隠しはつきません。

鬼板

上から
大屋根前方:『唐獅子』
大屋根後方:『唐獅子』
小屋根:『獅子噛』

懸魚

上から
大屋根前方:『鳳凰』
大屋根後方:『鷲』
小屋根:『牡丹』

車板・枡合・虹梁

大屋根前方
車板:『山水草木』
枡合:『牡丹に唐獅子』
虹梁:『唐子遊び』

二重虹梁の構造となっていますが、よく見る形態では構造虹梁が上、意匠的な虹梁が下とされるのに対し、市場地車はその逆となっています。

枡合の唐獅子を拡大して撮影、木に噛み付いている様子でしょうか。

大屋根後方
車板:『波濤』

小屋根
車板:『牡丹』
枡合:『青龍』

右面大屋根側
枡合:『牡丹に唐獅子』
虹梁:『唐子遊び』

右面小屋根側
枡合:『青龍』

左面大屋根側
枡合:『牡丹に唐獅子』
虹梁:『唐子遊び』

左面小屋根側
枡合:『青龍』

側面の彫刻は欠損なく、大変素晴らしいものばかりです。

天蓋

天蓋:『龍』

立派な龍の彫刻がありました。

木鼻

上が右面、下が左面
木鼻:『阿吽の唐獅子』

花戸口虹梁

花戸口虹梁:『鯉の滝登り』

部材が縦に長いことを活かした題材が使われています。

三枚板

正面:『劉備玄徳 壇渓を渡る』

三枚板はどれも三国志で統一されています。

古い地車なだけあって、武者絵の浮世絵が流行した文政年間以降の作品とは異なり、(言葉が正しいが微妙ですが)緊張感が控え目でどこかおっとりとした雰囲気が感じられる作品です。

右面:『趙雲』

左面:『関羽』

あごひげを触っているのでしょうか、何だかお茶目に見えます。

摺出鼻

摺出鼻:『牡丹』

勾欄が通し柱の位置で終わり、かなり下の方から摺出鼻がのびています。

勾欄合

前方
勾欄合:『波濤』

欠損が多く、全て彫り換えられていました。

後方
板勾欄:『波濤』

後方
勾欄合:『波濤』

右面
勾欄合:『波濤』

左面
勾欄合:『波濤』

持送り

持送り:『菊』

この時代の彫刻師の本領発揮が感じられるのがこういった花鳥物が彫刻された部分です。

どうですか、見事すぎる作品だと思いませんか!?
私はこの地車で一番お気に入りの部分です。

土呂幕

前方

前方の土呂幕は取り外されているようです。

後方:『波濤に鯉』

右面:『波濤に飛龍・鯉』

左面:『波濤に飛龍・鯉』

土呂幕は中間に長押を挟んで上段・下段と分かれる建築的意匠の濃い仕様です。

台木

右面
台木:『波濤』

左面
台木:『波濤』

波濤ではありますが、あっさりとしたデザインです。
時代を経るにつれこれが全面波濤、鯉、龍などの彫刻に変化することになります。

要所

①腕木:持送りではなく、長押の上に枡組が組まれ、それらが腕木を支える仕組みとなっています。
②前方妻側台木:曳綱環は当然無く、直接穴に通す仕様。
③車軸:木軸が使われていました。

金具

①破風中央:『唐草模様』
②破風傾斜部:『昇龍』
③虹梁:『梅鉢紋』 この地車を以前に所有していた村の手がかりになるかと思いましたが、が池坐朝霧黄幡比賣神社は菅原道真を祀っていますので、当地に来てから取り付けたものかもしれません。
④縁葛:『梅』
⑤長押端部:『梅』
⑥後方妻側台木:梃子穴周囲に金具がついています。

いかがでしたでしょうか。

奈良県には素晴らしい堺型が沢山存在しています。
また、祭礼日には神社に一晩留め置きすることもありますので、一度足を運んでしまえば、大阪府下よりも簡単に多くの堺型地車を見ることが出来ます。

今後も奈良県や池坐朝霧黄幡比賣神社に存在する堺型地車を記事化していきたいと思います。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

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