河内長野市西代神社 下西代地車

皆さんこんにちは。

地車図鑑の更新は少し間が空きましたが、今回は見事良い改修が行われた折衷型地車をご紹介したいと思います。

河内長野市下西代地車は、元は高石市3区の地車で、折衷型地車新調ブームの真っ只中の昭和61年に製作され、やり回し中心の祭礼に変化する泉州地域のだんじり祭りを支えた一台です。
下西代に嫁いでからもほぼオリジナルの姿のまま活躍していましたが、平成27年に大改修が行われ、屋根周りが大規模に交換されたことにより、随分と印象が変わりました。

同時期に池内工務店で生まれた折衷型は沢山存在していますが、屋根周りを丸ごと交換している例は他にありませんので、同タイプの地車を所有されている村の皆さんはなかなか驚かれたのではないでしょうか。

それではご覧ください。

河内長野市西代神社 下西代地車

◆地域詳細
宮入:西代神社
歴史:住所表記に下西代の名称は存在していない。
小屋が所在している河内長野市栄町は、昭和41年以降の河内長野市の地名で、元は喜多町・西代町・古野町の一部。

◆地車詳細
形式:折衷型
製作年:1986年(昭和61年)
購入年:1992年(平成4年)
大工:【池内工務店】池内福治郎
彫刻:【井波】中山慶春 【上丹生】十場裕次郎 【木下彫刻工芸】木下健治
改修年:2015年(平成27年)
改修大工:泉谷工務店
改修彫刻:【木彫前田工房】前田暁彦
歴史:高石市3区→河内長野市下西代

参考)
地域の歴史について
角川書店 『角川日本地名大辞典 17 大阪府』

姿見

左が前方、右が後方

屋根周りの改修により、屋根周りの枡組が重厚となり、より岸和田型の要素が強い折衷型の姿となりました。
改修は受けましたが、大屋根が切妻屋根である点は継承されています。

側面より(改修後)

元は勾欄の内側に責任者が立てるように作られていましたが、後方の勾欄親柱を撤廃して脇障子に繋ぎ、前方の張り出しを縮めたことにより、勾欄の外側に責任者が立つ仕様に変わりました。

側面より(改修前)

改修前の写真を見れば、何を言っているのか分かるかと思います。

斜め前より(改修後)

洗いがかけられたことに加え、屋根周りに金具を取り付けない仕様としているので、とても洗練されてスッキリとした印象になりました。

斜め前より(改修前)

これはこれで当時の〜感、があって好きでした。

斜め後より

破風

破風(改修後)

しっかりと勾配を持たせた破風形状となりました。

破風(改修前)

元は大工方が踊りやすいように勾配が控えめな形状をしていました。

枡組

5段2手先になっています。

この地車が作られた当時も枡組多めでの発注は可能だったでしょうが、このような見た目にはならなかっただろうと思います。

鬼板

上から
大屋根前方:『獅子噛』
大屋根後方:『獅子噛』
小屋根:『獅子噛』

改修前と比べて歯の着色が無くなり、黒目が小さくなったことで、より険しく睨む獅子噛へと変化しました。
破風形状が変わったので、破風と接する部分を少し削って調整されているようです。

大屋根前方(改修前):『獅子噛』

改修前と随分雰囲気が変わったことがわかります。

懸魚・桁隠し

大屋根前方
懸魚・桁隠し:『天乃岩戸』

懸魚・桁隠し一体で天乃岩戸を表現しています。とても細かい作品です。

小屋根
懸魚:『素戔嗚尊八岐大蛇退治』
桁隠し:『飛龍』

小屋根は懸魚・桁隠しは別の題材とされました。

小屋根懸魚(改修前):『松に鷲』

こちらはこちらで味があります。

車板・枡合・虹梁

大屋根前方
車板:『醍醐の花見』
枡合:『船弁慶』
虹梁:『真田幸村の勇戦』

大屋根側の枡合はどれも源平合戦から題材を得ています。
虹梁は戦国時代の題材です。

大屋根前方
車板:『宝珠を掴む青龍』

小屋根
車板:『七福神』
枡合:『名誉功労者花見酒』

小屋根の枡合は遊び心ある作品になっています。
右側には泉谷師・前田師の姿があり、キセルからの煙の形・倒れた猪口からこぼれた酒の形が、平仮名で『しもにし』になっているのも芸が細かいです。

枡合・虹梁

右面大屋根側
枡合:『義経白龍昇天』
虹梁:『木村重成の勇戦』

右面小屋根側
枡合:『神武東征』
虹梁:『桃太郎』

左面大屋根側
枡合:『安宅の関』
虹梁:『後藤基次の勇戦』

左面小屋根側
枡合:『因幡の白兎』
虹梁:『桃太郎』

小屋根の平側枡合は神話から、平側虹梁は桃太郎の鬼退治から題材を得ています。

木鼻

上が右面、下が左面
木鼻:『阿吽の唐獅子』

前柱に取り付く計4体は新調され、それ以外はオリジナルが残りました。

間仕切り

間仕切り:『雲海に鶴』

上地車らしい花戸口虹梁を思わせるような細工が施されています。
雲海の彫りも深く、個人的に良いなと思うポイントです。

脇障子

脇障子(前方):『大坂夏の陣』

脇障子(後方):『大坂夏の陣』

脇障子のメインは後方で、見送りと一体となって大坂夏の陣の題材を構成しています。

見送り

正面:『大坂夏の陣』

比較的多めに人形が配置されています。各面ごとに見ていきたいと思います。

正面の人形。

右面:『大坂夏の陣』

右面の人形。

左面:『大坂夏の陣』

左面の人形。

3面ともメインの馬乗りvs雑兵の様子を見ることが出来ます。

大脇

右面(前方):『大坂夏の陣』

左面(前方):『大坂夏の陣』

右面(後方):『大坂夏の陣』

左面(後方):『大坂夏の陣』

大脇も見送りと一体となって大坂夏の陣を表現しています。

大脇竹の節

大脇竹の節:『唐獅子』

どちらも阿の唐獅子でした。

摺出鼻

摺出鼻(外側):『牡丹に唐獅子』

摺出鼻(内側):『牡丹に唐獅子』

中山慶春師ワールド全開です。
肉厚かつ表情豊かな唐獅子が彫刻されています。

旗台

旗台:『牡丹に唐獅子』

番号持ち

番号持ち:『鍾馗』

番号持ちも改修時に新調されました。

勾欄合

前方:『牡丹に唐獅子』

右面:『牡丹に唐獅子』

左面:『牡丹に唐獅子』

勾欄合もオリジナルが残り、縁葛は欠損が多かったので修復されています。

持送り

前方:『波濤』

後方:『波濤』

古風に波濤の持送りが取りつきます。

土呂幕

前方:『牡丹に唐獅子』

後方:『牡丹に唐獅子』

中山慶春師の作品ですと、妻側は『高砂』と『西王母・東方朔』となることが多い印象ですが、下西代は妻側も牡丹に唐獅子です。

右面:『牡丹に唐獅子』

左面:『牡丹に唐獅子』

洗いがかけられ、目玉も描き直されましたので、見事新調時の輝きが取り戻されています。

下勾欄合

右面:『牡丹に唐獅子』

左面:『牡丹に唐獅子』

台木

右面:『波濤』

左面:『波濤』

傷みやすい台木ですがオリジナルが残り、洗いがかけられてとても綺麗になりました。

金具

①垂木先:『左三つ巴紋』 金具ではないですが、彫刻で表現されています。
②脇障子兜桁:『下西』の文字。 改修前からの意匠を引き継いでいます。
③勾欄:『花菱に唐草模様』
④肩背棒先:『下西代』の文字。 改修前は『下西』の文字でした。

いかがでしたでしょうか。

屋根周りは地車の顔なだけに、オリジナルの部分と上手く調和させるのが大変難しいかと思いますが、泉谷工務店の素晴らしい技術により違和感なく仕上げられています。
また、木彫前田工房の緻密な彫刻が取り付けられたことにより、オリジナルよりも大変豪華に良い作品へと生まれ変わりました。

元々は新しきを追い求めてこの世に誕生した折衷型地車。
このような形でオリジナルの良さを尊重しつつ、時代に合った新しい要素をバランス良く取り込む改修は、とても良いなと思いました。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です