堺市櫻井神社 泉田中地車

皆さんこんにちは。
寒さも和らぎ、そろそろ春かな~と思ったところで、早くも脳内が神戸の祭礼ムードにスイッチが入りつつある私です

(まだ試験曳きすら始まってないのに…)

さて、今回の記事は久しぶりに新鮮な内容で…先日修理入魂式を終えたばかりの泉田中地車のレポです

この地車は平成6年にも改修を経験しているようですが、今回は文化庁の「文化遺産を活かした地域活性化事業」の助成を受けて修理が行われました。

実は泉田中は個人的に思い入れのある地区で、なんとなく他所の祭礼を見始めた私を「こんな祭りもあるんだ!」と、一気に別の世界に惹き込んだ地区なんです…
初めて見る拡声器による掛け声と曳き歌・横しゃくりのパフォーマンスに圧倒された私は、以後取り憑かれたように上地車病を悪化させ、陶器・狭山→大阪市→尼崎・河内長野→中河内・北河内→兵庫→和歌山→奈良→南河内と、様々な地域を見るに至りましたとさ(笑)

そんな思い出もありまして、楽しみながら綺麗になった泉田中地車を見させて頂きました。
それではご覧頂きましょう。

堺市櫻井神社 泉田中(いずみたなか)地車

◆泉田中とは?
宮入:櫻井神社
小屋所在地:会館から西方に坂を上った所。
歴史:村名は町村合併により泉ヶ丘町田中→泉田中へ。

◆地車経緯
現地車:大正10年頃に購入。バラバラの状態で購入し組み立てたと云われる。

◆地車詳細
形式:擬宝珠勾欄堺型
製造年:江戸末期~明治初期
購入年:大正10年頃
改修年:平成6年
大工:河村新吾?
彫刻:【彫又】
改修大工:天野工務店
改修彫刻:?
歴史:?→泉田中

◆地車修理/箇所
・平成6年に天野工務店にて大改修。
躯体・屋根周り・脇障子・勾欄合・台木等を交換。
・平成27年に文化庁「文化遺産を活かした地域活性化事業」の助成を受け、関西地車製作事業協同組合…地車製作 隆匠にて修理。
姿見

左:前方より、右:後方より

屋根まわりを改修しているため、一見100年モノの地車には見えませんね。
腰周り(肩背棒までの高さ)が高い地車のように感じます。
山綱は取り外したのかな?房・安全柵・町名旗が良い感じに変わりましたね!

側面より

側面より

堺型の証として腰周りに4本の柱(土呂幕が3分割)があります。
大多数の堺型と異なるところは大屋根側の枡合中央に詰組があることでしょうか?(後述します)

屋根

屋型は平成6年の改修で、天野工務店が製作したものと思われます。
重厚で綺麗なラインですね!

鬼板

上から
大屋根前方:『獅子噛』
大屋根後方:『獅子噛』
小屋根:『獅子噛』

今回の修理で目の彩色が綺麗になっています。
以前より瞳が大きく、目線も少し上向きになり、鋭い顔つきになりましたね。

参考までに改修前の大屋根前方と小屋根の写真↓

前から気になっているのですが、この獅子噛の作者は誰なんでしょうか?

懸魚・桁隠し

大屋根前方 主懸魚:『朱雀』
桁隠し:『鯉』

上から
大屋根後方
桁隠し:『雲海』

小屋根
主懸魚:『布袋』
隣懸魚:『牡丹』

平成6年の改修で破風と一緒に取り替えたものと思われます。 主懸魚は現代風で、厚みと透かしが効いていますね。

車板・枡合・虹梁・花戸口虹梁

上から
大屋根前方
車板:『青龍』
枡合:『牡丹に唐獅子』
虹梁:『飛龍』

車内
枡合:『唐獅子』
花戸口虹梁:『青龍』

小屋根
車板:『鯉』
枡合:『牡丹に唐獅子』

車板(小屋根は枡合もかな?)は屋型と共に平成6年に交換されていると思われます。
車内側にも彫刻があり、豪華ですね。

枡合・虹梁・持送り

右面です。
大屋根枡合:『唐獅子』
大屋根虹梁:『飛龍』
持送り:『雲海』
小屋根枡合:『唐獅子』

左面です。
大屋根枡合:『牡丹に唐獅子』
大屋根虹梁:『飛龍』
持送り:『雲海』
小屋根枡合:『唐獅子』

姿見のところでも述べましたが、大屋根側面の枡合は中央部に枡組がついており、堺型にしては珍しい部分ではないでしょうか?
虹梁は分厚く、よく彫り抜かれた作品ですね。

木鼻

上が右面、下が左面
木鼻:『阿吽の唐獅子・漠』

二重で豪華です。二重仕様の堺型は他地区でも見たことがあります。 傷んだものは交換されているようで(下の左から2番目)、見事に違和感なく紛れ込んでいるので驚きました。
上の右から2番目の、前方を向いた獅子が可愛いですね。

柱巻き

柱巻き:『阿吽の龍』

擬宝珠勾欄堺型は素朴なイメージがありますが、立派な柱巻きがついています。
髭は金属を使用せず、彫刻として一体化していますね。

脇障子

脇障子:『鯉の滝登り』

脇障子:『鯉の滝登り』
鯉の滝登りは平成6年の改修で交換されたものと思われます。縦長の部材を上手く用いた題材ですね。
平成6年改修前は脇障子が勾欄の前から3番目の親柱も兼ねているタイプだったようです。

個人的な話ですが、兜桁の上に乗っている唐獅子がこの地車で一番好きなところです。

三枚板

正面より
三枚板:『武者』(大鉞を打ち込む長山?、坂田金時?)

いよいよ三枚板ですが、なかなか悩ましい題材…仙人ではなく、武者です。
正面は鉞を持っているため、そのような人物は何人かに限定されますが…側面はさっぱりです。

右面
三枚板:『武者』

左面
三枚板:『武者』

欠品が少なく、大変良い作品ですね。

摺出鼻・旗台

上から 右面、左面、旗台 摺出鼻:『猿』
旗台:『獅子噛』

擦出鼻の付け根にお猿さんがいます。 旗台は鋭い顔つきの獅子噛。元は力神か何かかな?

勾欄合

上段が前方、下段が後方

右面
下段は下勾欄

左面
下段は下勾欄

勾欄合:『波濤に千鳥』

平成6年改修時の作かと、全てこの題材で統一されているようです。

縁葛

前方

後方

右面

左面

前方後方はパノラマにできませんでした、すみません。
新調当時(江戸~明治)の作品のようです。貴重故に修理前からしっかり網でガードしてあります。

左面前方に三つ鱗紋の旗が見えます、北条氏?
三枚板もそうですが、この地車の題材は鎌倉~室町~付近の題材なんでしょうかね。

持送り

前方の左面、右面
持送り:『?』

左から
右面後方、右面、左面、左面後方

側面は前から二番目の柱と後方のみに持送りがついています。
本来はどの柱にも持送りがついていたと考えられますが、囲い枠タイプの肩背棒を増設するために通し柱に貫腕を設置したことで取り外したと見られます。

持送りを全て保存するため?に、土呂幕の隅を切り欠いて貫腕を通している堺型もありますが、どちらの方法を用いても本来の姿ではない故にどこかの部品の取り外し・加工は防げず、それぞれ利点・欠点がありそうです。

土呂幕

上が前方:『牡丹に唐獅子』
下が後方:『武者』
前方は平成6年の改修時に交換したものと思われます。
元は扉式ではなく、火燈窓で閂がついていたのではないでしょうか?

右面
土呂幕:『武者』

左面
土呂幕:『武者』
側面は刀を持ったり、槍を持ったり、走り回る武者です。貴重な本来の顔も幾つか残っています。

台木

上が右面、下が左面
台木:『波濤に龍』

こちらは平成6年の改修の作かと。
やりまわし主体の上地車は取り外していることが多いですが、ねじり棒でしっかり肩背棒と固定しています。

平成6年の改修前は下勾欄の親柱は6角形のもの、台木は波模様のみだったようです。

要所(組物・旗台)

載せ切れなかった部分をまとめて紹介します。
①大屋根側面中央の詰組
建築的意匠の強い、古い堺型に見られる印象です。
②小屋根の大斗肘木
古いタイプだと思われます。門真市打越地車が同じ仕様です。
③拡声器
箱棟ではなく、屋根の段差に設置。マイクはワイヤレスで屋根方が持っています。
④鳴物
泉州では一般的な太鼓の積み方、恐らく笛は無し?
⑤間仕切り
⑥勾欄持ち
獅子頭ではなく、模様。
⑦雛壇
勾欄の内側に責任者が立つ地車はそれほど多くないですね、パッと思いつくのは桝矢・山本・樫山など…
⑧緩衝材
⑨緩衝材
しゃくった際に接地する箇所は緩衝材が入っているようです。
⑩安全柵跳上ペダル
これは便利で良いですね…地車の後ろをしゃくる地区は安全柵がつっかえてしまうため、上方へ折れるものが多いですが、その操作は紐であったり、そもそもしゃくるシーンでは取り外したりしています。
頻繁にしゃくる大阪市内の祭礼形態にも応用できそうですね。

金具

①破風は透かして宝珠、葺地は唐草模様。
②破風傾斜部には昇竜・降龍。
③房固定金具
カラビナで固定しているので横揺らしでも房が外れる心配が要りません。
④垂木には銀色で左三つ巴紋、台輪の先には左三つ巴紋と菊紋。 ⑤脇障子の兜桁に菊紋。 ⑥小屋根通し柱
伊勢込みで金色の下地。 ⑦金色の擬宝珠と縁葛には浮き彫りの唐獅子。
⑧肩背棒先に金色で泉田中の文字。
⑨下勾欄親柱
擬宝珠や尖ったタイプではなく、丸いものです。
⑩安全柵
銀色で泉田中の文字。
⑪ターンバックル
今回の修理で装着方法が4本→2本へ変わったようです。

曳行中の動画を持っていないため、今回は写真で〆ます。
何年か前の写真で、上神谷地区の地車が集結し周回するNTT前で練る様子です。

泉田中の皆様、この度は修理完成おめでとうございます。

おしまい

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