皆さんこんにちは。
毎年恒例、9月の敬老の日前後は築地のだんじり祭りです。
築地のだんじり祭りと言えば、お隣の貴布禰地区も同様、だんじりを指相撲のように絡めて勝負し、最終的に肩背棒を上に重ねた方が勝ちとする山合わせが有名です。
全国的に見れば山車同士をぶつけあう祭りなど、他所にもあるのでそれほど珍しいものではありませんが…近隣の地区と比べるとやや荒々しい祭りであり、ひと昔前まではとりあえずだんじりとして形ある箱があればいい、鳴物も半鐘の代わりにプロパンガスのボンベを切断して使った等…色々な話を聞いたことがあります。
しかし、築地地区・貴布禰地区も近年では大きく変わり、厳格化されたルールの範囲内で山合わせを行い、比較的新しい中古の地車を購入したり、現時点で所有している地車を岸和田にある地車専門の工務店で綺麗に改修したりといった町が増えてきました。
そんな中、飛び込んできたのが今回のニュース。
なんと築地本町一丁目がだんじりを新調するということで、築地地区に数百年ぶりの新調地車が誕生することとなりました。
生憎入魂式の日は行けなかったのですが、本祭りの休憩のタイミングでしっかりと見てきましたので、ご紹介したいと思います。
それではご覧ください。
尼崎市初嶋大神宮 築地本町一丁目地車 ◆地車詳細 形式:尼崎型 製作年:2017年(平成29年) 大工:大下工務店 彫刻:辰美工芸
姿見
左が前方、右が後方。
大きな交差旗が格好いいですね。
小嶋・南濱・北出屋敷西町のように正面妻側の提灯を屋根下に収める飾りつけに変更されています。
側面より
1から地車をつくる、ということで様々な形態の選択肢があったかとは思いますが、以下のような仕様になっています。
・6本の通し柱 ・桁隠しがある ・大屋根と小屋根の段差が少ない ・出三斗の枡組 ・虹梁に持送りがある
・角障子がない ・勾欄が四方を囲っている ・土呂幕に彫刻がない ・梃子を差す懐が前後にある
・二枚ホゾ角型の台木で猫木は前後別 ・ホイールベースが短い
など、色々な特徴があります。
斜め前より
破風
重厚な印象です。桁隠しがつきます。
側面から見ると、葺地が分厚いように感じました。
鬼板
上から
大屋根前方:『獅子噛』
大屋根後方:『獅子噛』
小屋根:『獅子噛』
辰美工芸作の獅子噛ではよく見る表情です。
懸魚
大屋根前方
懸魚:『鳳凰』
桁隠し:『朱雀』
小屋根
懸魚:『青龍』
桁隠し:『飛龍』
車板
前方:『宝珠を掴む青龍』
後方:『牡丹に唐獅子』
枡組がありますが、妻側は枡合・車板と分けずに、一枚の車板で構成。
題材も戦記モノではなくオーソドックスに獣が採用されています。
枡合・虹梁持送り
右面大屋根側
枡合:『牡丹に唐獅子』
持送り:『牡丹』
先代地車は枡合・持送りに小松の立派な牡丹に唐獅子の彫刻が施されていました。
それを踏襲してでしょうか?新調地車にも同じ題材が採用されています。
恐らく構造上必須ではないパーツの持送りがある点は興味深いです。
今後もし尼崎型を新調する際に虹梁の持送りが採用されるなど、トレンドの先駆けとなれば面白いと思います。
右面小屋根側
枡合:『牡丹に唐獅子』
持送り:『牡丹』
左面小屋根側
枡合:『牡丹に唐獅子』
持送り:『牡丹』
左面小屋根側
枡合:『牡丹に唐獅子』
持送り:『牡丹』
牡丹を噛む唐獅子の彫刻も、遊び心があります。
車内枡合
車内枡合:『鶴』
持送り:『牡丹』
車内のみ、唐獅子ではなく鶴になっています。
木鼻
上が右面、下が左面。
木鼻:『阿吽の唐獅子』
全部で10体です。
脇障子
脇障子:『麒麟』
勾欄親柱を兼ねない脇障子が取り付けられています。
三枚板
正面:『戸田氏鉄』
尼崎藩初の譜代大名で、尼崎城の築城と城下町の整備を行った人物です。
大垣公園に銅像があります。
これは関ヶ原の戦いで活躍した場面を想定して彫刻されたものでしょうか?
寄ってもう一枚!
右面:『秀吉 尼崎の難』
中国大返しの途中、尼崎にてみそすり坊主に化け、敵兵をやりすごした場面。
左面:『荒木村重 餅を食らう』家紋で判断するに右は織田信長か?ならば左の堪えた表情をしている人物は光秀か?と、思いきや源氏車紋の着物を着ているのでよく分かりません。
追記)
左の人物は荒木村重とコメントにてご教示いただきました。
勾欄合・縁葛
勾欄まわり等、山合わせで傷を負う可能性がある部分には彫刻が施されていません。
土呂幕
妻側は無し、平側は格子になっています。
太く長い肩背棒を支える大きな貫腕がよく見えます。
後方は踏み台や梯子が整備されています。
台木
右面
台木:『牡丹に唐獅子』
右面
左面
台木:『牡丹に唐獅子』
左面
先代は波濤に鯉の彫刻でしたが、牡丹に唐獅子の彫刻となりました。
肩背棒先
本一の紋、九曜紋、菊紋の3パターンあります。
金具
破風傾斜部には唐草模様と昇龍・降龍、垂木先には九曜紋。
いかがでしたでしょうか。 尼崎のだんじりは山合わせ付近の時間帯になってくるとなかなか見物しにくくなりますが、町内曳行中や食事休憩の時間帯は比較的じっくり見ることができます。 是非、山合わせだけでなく、地車本体や彫刻にも注目してみてください。 最後までご覧いただき、ありがとうございました。
3枚板の左面、織田信長(右)が荒木村重(左)に刀の先に刺した餅を食べさせる場面です。江戸時代に錦絵その他で描かれた有名な図柄です。荒木は有岡(伊丹)城主ですが、
尼崎城も支配していて、謀反の時、尼崎城にも籠ったので、尼崎ゆかりの人物として3枚板に選ばれたのでしょう。いい写真、ありがとうございます。
コメントありがとうございます。
大変勉強になります、題材が分かり、スッキリとしました。
どの3枚板もゆかりの題材が使われており、とても良い地車だと思います。