
皆さんこんにちは。
前回・前々回は東大阪市の地車を記事にしましたので、今回は久しぶりに南河内の地車を記事にしたいと思います。
河内長野の地車を検索して当ブログに辿り着かれる方がたまにいらっしゃるようですが、私は河内長野のだんじり祭が大好きですので、今後もなるべく優先して記事にしたいと考えています。
今回ご紹介する石坂の地車は、萬源の板勾欄堺型。
類似する作品は木戸本郷・奈良県の市場東、改修により原型から大きく変わっていますが尼崎市御園町等が挙げられます。
石坂地車を初めて見たのは2014年で、高音の鉦と低音の大太鼓の鳴物のバランスが心地よく、ノリノリでぶんまわしをする姿が印象的でした。夜はぶんまわしの最中に青の照明に切り替わる様も格好いいですね。
河内長野の地車の中でも個人的に好きな一台です。
それではご覧ください。
河内長野市西代神社 石坂地車 ◆地域詳細 宮入:西代神社 小屋所在地:高野街道沿い 歴史:村中にある晴明塚は、天皇が高野山参拝をする日の天気の占いを外してしまった安倍晴明が、持っていた陰陽道の書物を埋めた場所と伝わる。 参考) かわちながの生涯学習情報誌 平成17(2005)年11月 No.14 ◆地車詳細 形式:板勾欄堺型 製作年:1882年 (明治15年) 大工:【萬源】木村源平 彫刻:【彫又】西岡弥三郎 改修大工①:夏目司 改修大工②:吉為工務店 改修彫刻②:近藤晃? 歴史:堺市陶器方面→河内長野市石坂 ◆歴代石坂地車 現地車(初代?):大正4年、堺市陶器方面より購入と云われている。 ◆地車修理/箇所 ・昭和63年 夏目司 躯体・一部彫刻新調 ・平成21年 吉為工務店 洗い・締め直し
姿見

左が前方、右が後方。
板勾欄型はこの世に様々存在していますが、住吉で作られたものと堺で作られたものでは仕様が異なります。
この地車の大きな特徴として、板勾欄に背景と人物を全て彫刻し、出人形が設けられていない点が挙げられます。
これは板勾欄堺型の特徴のように思えるもので、同じ堺市金岡の大工、河村新吾の作品もこのような仕様になっています。

側面より
かなり腰の高さが高く、大型な地車です。
この高さでは肩背棒に力を入れにくいので、前方は1段下がって取り付けられています。
破風

幅広で勾配が少なく、箕甲の間隔が狭いです。
萬源の破風は端の反りがなく、折屋根になっていることもあります。
鬼板

上から
大屋根前方:『獅子噛』
大屋根後方:『獅子噛』
小屋根:『獅子噛』
三面とも獅子噛で、昭和63年修復時に彫刻されたものと思われます。
近藤晃師の作品でしょうか。
懸魚

上から
大屋根前方:『鳳凰』
小屋根:『宝珠を掴む青龍』
懸魚も彫り換えられています。
破風形状に合わせて、高さ方向が控えめに彫刻されています。
車板

上から
大屋根前方車板:『青龍』
花戸口虹梁:『松に鷹』
小屋根車板:『宝珠を掴む青龍』
この地車は枡組がなく、台輪のような段が彫られた虹梁(面白い作りです、あくまで柱が勝っているので台輪ではありません)の上に車板がはめ込まれています。
枡組を持たず車板になっている堺型は珍しいと言えば珍しいですが、堺北(小綱町地車の大工)も同じ技法を用いていましたので、極端に珍しいものではありません。
車板

右面大屋根側:『青龍』
右面小屋根側:『竹に虎』

左面大屋根側:『青龍』
左面小屋根側:『竹に虎』
平側は龍虎の組み合わせです。
木鼻

上が右面、下が左面。
木鼻:『阿吽の唐獅子・力神』
唐獅子の雰囲気が非常によく、様々な方向を向いたり、舌を出したり、牡丹があったり… この付近を見るだけでもかなり拘って制作されたことが分かります。
柱巻き

柱巻き:『昇龍・降龍』
昇龍は宝珠を持っています。
脇障子・持送り

左が右面、右が左面。
脇障子:『梅に千鳥』
持送り:『獅子の子落とし』
縦に長い脇障子と持送りがつきます。部材の長さを生かした題材です。
三枚板

正面:『朝鮮の役 加藤清正の勇姿』

右面:『朝鮮の役 李如松』

左面:『朝鮮の役 後藤又兵衛虎退治』
題材は朝鮮の役で統一。
人物はしっかりと手前に張り出しており立体感が抜群、背景は二層になっており、幹の奥の松の葉まで表現されています。
バランス・表情・鎧の模様の細かさ等素晴らしく、大変魅力的な作品です。
角障子

上が左面、下が右面。
角障子:『梅に千鳥』
妻側と平行に設けられています。これも堺型ならでは。
摺出鼻

上が右面、下が左面。
摺出鼻:『牡丹に唐獅子』
持送りと合わせて構成されます。
旗台

旗台:『力神』
板勾欄・縁葛

上が前方、下が後方
板勾欄:『賤ヶ岳の戦い』

右面、上が大屋根側、下が小屋根側
板勾欄:『賤ヶ岳の戦い』

左面、上が大屋根側、下が小屋根側
板勾欄:『賤ヶ岳の戦い』
板勾欄は賤ヶ岳の戦いで統一されています。
腕木

上が右面、下が左面。
腕木:『阿吽の唐獅子』
愛嬌のある唐獅子がついています。
写真はありませんが、前方のみ唐獅子ではなく、唐草模様。
持送り

左が左面、右が右面。
持送り:『竹に虎』
左右で阿吽になっており、顔まで1枚で彫られた作品です。
土呂幕

上が前方、下が後方。
前方:『武者』
後方:『武者』
前方は扉式になっています。彫り換えられているようです。

右面:『武者』

左面:『武者』
土呂幕は擬宝珠勾欄堺型と同様、3分割されています。
下勾欄

右面:『唐獅子』

左面:『牡丹に唐獅子』
下勾欄も上部の勾欄同様、親柱の間に板がはめ込まれています。
部材が大きく取られているので、のびのびとした空間の中、追いかけあう獅子が表現されています。
台木

右面:『波濤に鯉』

左面:『波濤に鯉』
芯金を台木と猫木で挟むのではなく、猫木に通すオリジナルのままの手法が用いられています。
要所

①柱・桁接合部:枡組がなく、直接仕口になっています。
②車内:大太鼓は土呂幕に寝かせる昔ながらのスタイル。
③肩背棒段差部:こうすることで、1段低い位置から力を入れることが出来ます。
④肩背棒先:ぶんまわしで接地するため、下方が盛られています。
⑤貫腕:唐草模様が入ります。貴重なオリジナルです。
⑥芯金:潤滑油の受け皿がついていました。
金具

①破風中央:『唐草模様・宝珠』
②破風傾斜部:『唐草模様、昇龍・降龍、桁隠しに左三つ巴紋』
③脇障子兜桁先・垂木先:『左三つ巴紋』
④肩背棒先:『石・坂』の文字
⑤勾欄親柱:『唐草模様』
いかがでしたでしょうか? 彫又西岡弥三郎の素晴らしい彫刻を持つ地車で、獣の彫刻、武者の彫刻の両方を同時に楽しめる魅力たっぷりの作品でした。 今後も萬源の地車を記事にすることがあるかと思いますが、その際はじっくり石坂地車と比べてみたいと思います。 最後までご覧いただきありがとうございました。