大阪市西淀川区野里住吉神社 野里東之町地車

皆さんこんにちは。

先日、北区天満市場の地車が新調されましたが、今回は平成の天満型?と呼ばれている野里東之町の地車をご紹介したいと思います。

野里東之町は平成22年に完全新調された市内では比較的新しい地車です。
しかし新しい地車でありながら、トレンドの折衷型ベースにボリューム満点の三枚板を持つ作品ではなく、社寺建築の構造美や江戸時代の地車に見られる意匠をふんだんに取り入れた作品となっており、他の地車とは一線を画す存在です。

それではご覧ください。

大阪市西淀川区野里住吉神社 野里東之町地車

◆地域詳細
宮入:野里住吉神社
小屋所在地:神社境内

◆地車詳細
形式:大阪型
製作年:2010年(平成22年)
大工:河合工務店
彫刻:御堂製作所

◆歴代野里東之町地車
・先代(初代?):大阪型、現地車新調に伴い北区中津へ。その後解体され、門真市南十番地車・守口市大庭七番地車・堺市登美丘地車の新調部材として再活用される。
・現地車(2代目?):大阪型、平成22年新調。

姿見

左が前方、右が後方。

漆塗りに豊富な金具類、大変豪華な造りです。
三枚板は古風な火燈窓タイプが採用されています。
後方の勾欄中央部は縁が切られていますが、こちらは洲本の曳きだんじり由来の意匠かな?

側面より

大屋根周りは長押が取り付きます。
そして、何と言っても後方にかけて1段高くなる勾欄に特徴があります。
こちらはお馴染み天満市場のだんじりと同じ意匠です。

斜め前より

斜め後より

破風

分厚い破風にピッチの広い蓑甲、なで肩の形状となっており、大変美しい破風です。

枡組

二段一手先の組物が入ります。

漆塗りに金箔が貼られ、大変豪華な仕様です。

鬼板

上から
大屋根前方:『獅子噛』
大屋根後方:『獅子噛』
小屋根:『鍾馗の鬼退治』

大屋根後方は眉の表現や角は江戸時代の地車に見られる鬼瓦風のデザイン。こちらは交野市私市地車由来の意匠かな?

小屋根の鍾馗は静岡県掛塚の中町の山車由来の意匠に見えます。
中町は大正6年伊藤松次郎の作。更に大元を辿ると鍾馗が傘で鬼を押さえつけるデザインは愛知県美浜町の護王車、立川流彫刻に行き着きます。

箱棟

箱棟:『雲海』

懸魚・桁隠し

大屋根前方
懸魚:『朱雀』
桁隠し:『桐』

小屋根
懸魚:『蓑亀』
桁隠し:『海馬』

車板・枡合・虹梁

大屋根前方
車板:『鯱』
枡合:『酒呑童子退治』(大江山へ入る)
虹梁:『阿吽の龍』

車板は束が付き、左右二分割される仕様になっています。

小屋根
車板:『麒麟』
枡合:『酒呑童子退治』(斬られた首が頼光に襲い掛かる)

右面大屋根側
枡合:『酒呑童子退治』(神便鬼毒酒を授かる)
虹梁:『阿吽の龍』

姿見でも書きましたが、大屋根側は長押が取り付き、虹梁は構造体メインと彫刻メインの二重仕様です。

右面小屋根側
枡合:『酒吞童子退治』(隠れ蓑を授かる)

左面大屋根側
枡合:『酒呑童子退治』(鬼の住処を訪ねる)
虹梁:『阿吽の龍』

左面小屋根側
枡合:『酒呑童子退治』(神便鬼毒酒を酒呑童子に飲ませる)

酒呑童子退治の題材は先代地車より引き継いだものです。
この地車は構造的に類を見ない試みが行われているだけでなく、先代地車への愛情もしっかりと盛り込まれている作品と言う訳です。

大屋根前方→右面大屋根側→右面小屋根側→左面大屋根側→左面小屋根側→小屋根後方の順番で見ると話が繋がります。

天蓋

勿論、車内まで拘り抜かれています。天蓋は折り上げ格天井タイプ。
有りそうで無かった仕様かと思います。

車内枡合

前方:『花鳥風月』

枡合は車内側も題材を持ちます。

後方:『宝珠を掴む青龍』

右面:『花鳥風月』

左面:『花鳥風月』

木鼻

木鼻:『阿吽の唐獅子・獏・息・象』

大屋根後方は息と象がおり、特徴があります。
息は御堂製作所、現在は御堂製作所から独立した辰美工芸の作品に見られます。

水引幕

正面:『三韓征伐 神功皇后と阿曇磯良』

分厚く刺繍が施された立派な幕です、フチの部分までしっかりと刺繍されている所からも拘りを感じます。

右面:『三韓征伐 神功皇后と阿曇磯良』

左面:『三韓征伐 神功皇后と阿曇磯良』

絵振板

絵振板:『牡丹』

絵振板は神戸型以外ではあまりお目にかからないパーツです。
あった方が彫刻を施せる場所が増えますので、豪華になりますね。

脇障子

脇障子:『紅葉狩・羅生門』

脇障子も鬼退治の伝説より題材を得ています。

三枚板

正面:『多田満仲 九頭龍退治』

火燈窓の形状は左右に比べて正面は複雑になっています。
宝が中央に配置され、台は波濤になっています。

右面:『八幡太郎義家 勿来関』

左面:『源頼義 霊水を得る』

三枚板はどれも平安時代の話です。
源平合戦ではなく、前九年・後三年の役より題材を得ています。

角障子

角障子(前方):『麒麟』

角障子(後方):『飛龍』

角障子は斜め後方ではなく、妻側と平行になるように取り付けられています。
これも天満市場のだんじりと同じ意匠です。

勾欄合

前方:『牡丹に唐獅子』

後方:『牡丹に唐獅子』

右面:『牡丹に唐獅子』

左面:『牡丹に唐獅子』

勾欄合もまるで枡合のように獣が手前に張り出して彫刻されています。
乗り降りする場所なので傷つけないように気を使いますが、とても良いデザインだと思います。

勾欄親柱装飾

勾欄親柱装飾:『親子獅子』

後方のみ柱巻きのように装飾が取り付きます。

腰組

腰組を下から見た様子。

土呂幕

前方:『登竜門』

後方:『竜宮伝説』

右面全景

土呂幕は虹梁を挟んで上下2分割になっており、下段はよくある彫刻板はめ込みタイプ、上段は蟇股とその左右に彫刻が取り付く仕様です。

右面大屋根側
蟇股:『趙雲阿斗を救う・午未申』
土呂幕(上段):『飛龍』
土呂幕(下段):『竜宮伝説』

右面小屋根側
蟇股:『貂蝉の舞・酉戌亥』
土呂幕(上段):『飛龍』
土呂幕(下段):『竜宮伝説』

左面全景

左面大屋根側
蟇股:『赤壁・卯辰巳』
土呂幕(上段):『飛龍』
土呂幕(下段):『竜宮伝説』

左面小屋根側
蟇股:『桃園の誓い・子丑寅』
土呂幕(上段):『飛龍』
土呂幕(下段):『竜宮伝説』

蟇股は三国志の場面を干支で表現する遊び心溢れる作品となっています。

台木

右面:『波濤』

左面:『波濤』

台木はあっさり目で波濤のみの彫刻。
これは構造の複雑さを際立たせるためにあえて控え目にしているのでしょう。
猫木は前後分割タイプで心棒は見えない仕様になっています。

金具

①破風中央:『唐草模様』
②破風傾斜部:『昇龍・降龍』
③垂木先:『左三つ巴紋』
④角障子兜桁:『左三つ巴紋』
⑤勾欄:『唐草模様』
⑥縁板:『楓に鹿』
⑦小屋根勾欄親柱:『龍』
⑧柱:『波濤』

いかがでしたでしょうか。

社寺建築や他地域の山車の要素をふんだんに取り入れつつ、彫刻に先代と同じ題材を採用する等、前例の無いことに挑戦した大工さんの苦労をひしひしと感じる作品でした。
参考にしたであろう作品の中には大阪府外のものも多数ありますから、相当マニアックな方が地車のデザイン決めに関わられたのだろうと思います。
あの意匠を採用したいこの意匠を採用したい、といった内容の話を町内と大工さんでどのように纏めて行ったのか、とても興味深いですね。

最後までご覧頂き、ありがとうございました。

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