
皆さんこんにちは。
日々暑くなる気温に夏の訪れを徐々に感じていますが、そんな中、先日少し驚くニュースがありまして…横堤八幡宮の夏祭りが開催時期と名称を改め、今年から5/24・25日に『横堤八幡宮だんじり祭り』として行われることになりました。
理由としては、近年の猛暑続きの気候により熱中症の危険性が高まったことから、このまま夏に継続するのは難しいと判断した、とのこと。
まずはこの決断をどの地域よりも早く行い、実行されたことが凄いですね。
夜に曳行すれば良いとの考え方もあるかと思いますが、それでは村をしっかりと回りきれない、との判断でしょう。昼も夜もきちんと村を曳行することに重きを置いた判断をされました。
今後もこれに追従する地域が出てくるでしょうか、注目ですね。
さて、そんな話題の横堤地車ですが、10年以上前にも取材していましたがあまり綺麗に撮影出来ていませんでしたので、先日の鶴見区だんじり祭りで再度綺麗に撮影をしてきました。
それではご覧ください。
大阪市鶴見区横堤八幡宮 横堤地車
◆地域詳細
宮入:横堤八幡宮
小屋所在地:神社境内
歴史:戦国期から見える地名で、寝屋川に対して横堤(河川に対して直行方向に設けられる堤防のことで、洪水を受け止める役割を持つ。)を形成していたことに由来する。
古来から「河内の泥田あひる」の産地で知られ、沼田の蓮根も多く生産した。元は古川左岸に位置していたが、享保9年の古川落口の付け替えにより、門真井路・八ヶ井路沿いに位置する。
◆地車詳細
形式:大阪型
製作年:明治10~20年頃か
購入年:1891年(明治24年)頃
大工:片江の【大喜】こと 宮崎喜三郎
彫刻:彫清一門
改修年:2000年(平成12年)
改修大工:吉為工務店
改修彫刻:松並義孝・近藤晃
歴史:大阪市片江→大阪市横堤
参考)
地域の歴史について
角川書店 『角川日本地名大辞典 27 大阪府』
地車の購入年・大工・歴史について
社団法人大阪観光協会 『大阪のだんじり』
地車の改修年・改修彫刻について
山車・だんじり悉皆調査 https://www5a.biglobe.ne.jp/~iwanee/
姿見

左が前方、右が後方。
100年以上前の地車ですが、平成12年に吉為工務店で大改修を受けているため、古さを全く感じない見た目をしています。

側面より
車板・木鼻・三枚板・脇障子・角障子はオリジナルの彫刻が残っています。
オリジナルの勾欄は親柱が片側4つの構成でしたが、改修時に片側3つに変更されています。

斜め前より
鶴見区の上地車で唯一金綱を取り付けているのが特徴で、小屋根側までしっかりとまわされています。
提灯は白バージョンと赤バージョンがあります。

斜め後より
破風

吉為工務店で改修を受けた際に交換されています。
枡組

大斗肘木のシンプルな構成で組み物が入っています。
鬼板

上から
大屋根前方:『獅子噛』
大屋根後方:『獅子噛』
小屋根:『獅子噛』
松並師の獅子噛です。この獅子噛がきっかけで横堤地車を見に来られる方が一定数いらっしゃるのではないでしょうか。
私が横堤地車を最初に見たきっかけは松並師の彫刻が組み込まれているのが理由でした。
眉や手の毛並みが下から上に吹き上げるような表現になっているのが特徴です。
箱棟

箱棟:『龍』
懸魚・桁隠し

大屋根前方
懸魚:『鳳凰』
桁隠し:『麒麟』

小屋根
懸魚・桁隠し:『猿に鷲』
獣の表情がどれも険しく、目が一切笑っていないのが特徴。
どれも魅力的な作品ばかりです。
車板

前方:『宝珠を掴む青龍』
破風周りの彫刻は彫り替えられたもので占められていますが、車板はオリジナルの彫刻が残っています。

後方:『牡丹に唐獅子』

右面大屋根側
車板:『吽の龍』
持送り:『花鳥風月』

右面小屋根側:『牡丹に唐獅子』
スペースから溢れんばかりに彫刻されています。

左面大屋根側
車板:『阿の龍』
持送り:『花鳥風月』

左面小屋根側:『牡丹に唐獅子』
木鼻

木鼻:『牡丹に唐獅子』
一般的な唐獅子単品の半身彫刻・全身彫刻ではなく、周辺の風景まで含めた『牡丹に唐獅子』の彫刻になっている珍しい仕様になっています。
柱巻き

柱巻き:『昇龍・降龍』

柱巻き:『昇龍・降龍』
柱巻きは新しい彫刻に入れ替えられており、それぞれが睨み合うように頭の角度や目線が調整されています。
脇障子

脇障子:『獅子の子落とし』
オリジナルでは兜桁の上にも脇障子が続いており、大屋根下まで到達するような大型のものが取り付けられていました。
車内車板

車内車板:『鶴』
持送り:『松』
希少なオリジナルが残っています。
三枚板・角障子

正面全景
まずは全景から。
大阪型地車でたまに見かけるのですが、角障子に昇龍・降龍のペアを持ってきている作品は個人的に好みです。

正面:『羅生門の鬼退治』
編み込みで見えにくくなっていますが、この題材で間違いありません。
是非一度編み込み無しで見てみたいものですが、まぁ叶うことはないでしょう。

正面:『羅生門の鬼退治』
右側から覗くと鬼の姿が確認できます。

角障子:『昇龍・降龍』
大阪型でたまに見かけますが、角障子にこの題材は個人的に好みです。

右面全景

右面:『巴御前の勇姿』

左面全景

左面:『秀吉本陣佐久間の乱入』
正面・右面は平安時代の出来事ですが、左面は戦国時代から題材を得ています。
やはりこの題材は人気ですね。秀吉の登場から明治時代の地車なのは確定だと思います。
勾欄合・縁葛

前方
勾欄合:『東海道中膝栗毛』
縁葛:『【太平記】櫻井の別れ』
個人的にとても面白いと思ったのが勾欄合で、かなり珍しい題材を選択されています。(よく調べると岸和田市春木南地車はこの題材だそうです。)
旅好きで日本各地を訪れた身としては、非常に楽しく、見逃せない題材です。
前方は日本橋~小田原の出来事が彫刻されています。

後方
勾欄合:『東海道中膝栗毛』
縁葛:『【太平記】?』
勾欄合は亀に噛まれている様子があるので、三島での出来事ですね。
縁葛は判断材料に欠けますが、題材になるとしたら湊川の戦いでしょうか?

右面大屋根側
勾欄合:『東海道中膝栗毛』
縁葛:『【太平記】赤坂城の戦い』
洗濯物を幽霊と勘違いして驚く場面は浜松での出来事です。

右面小屋根側
勾欄合:『東海道中膝栗毛』
縁葛:『【太平記】赤坂城の戦い』
駕籠の底が抜けて転げ落ちているのは金谷での出来事です。

左面大屋根側
勾欄合:『東海道中膝栗毛』
縁葛:『【太平記】千早城の戦い』
運搬中の地蔵に驚いているのは四日市での出来事です。

左面小屋根側
勾欄合:『東海道中膝栗毛』
縁葛:『【太平記】千早城の戦い』
土呂幕

前方:『賤ヶ岳合戦七本槍』
土呂幕は全面併せて七本槍が彫刻されています。
前方には秀吉がいます。

後方:『賤ヶ岳合戦七本槍』

右面全景
下勾欄が無いので非常に見やすいです。
近年流行りの前後一続きではなく柱をしっかりと見せる仕様になっています。

右面大屋根側:『賤ヶ岳合戦七本槍』

右面小屋根側:『賤ヶ岳合戦七本槍』

左面全景

左面大屋根側:『賤ヶ岳合戦七本槍』
家紋が刻まれていないので、他の面は判断が難しいですが、これは加藤清正ですね。

左面小屋根側:『賤ヶ岳合戦七本槍』
三人刺しの場面が有名ですが、これは片桐且元かな?
持送り

持送り:『波濤に鯉』
後方のみ取り付けられています。
台木

前方:『波濤』

後方:『波濤に鯉』

後方:『波濤に鯉』
平成29年の改修で梃子穴がついたものに変更されました。
しかし、梃子を差している様子は一度も見たことがないですね。
鶴見区は今津や浜も後梃子ありの上地車ですので、そんなに珍しいものではないですが、使っていないとなると不思議です。

右面:『波濤に鯉・亀』

左面:『波濤に鯉・亀』
台木の彫刻は注目したいところです。
大きく顔を側面に出すように彫刻された鯉は迫力抜群で、鯉の数も大変多いです。
左右で1匹ずつ亀も隠れているので、探してみてください。
金具

①破風中央:『雲海に宝珠』
②破風傾斜部:『昇龍』
③破風端部:『唐草模様』
④垂木先:『横・堤』の文字。
⑤脇障子兜桁:『横』の文字。
⑥縁葛端部:『唐獅子』
⑦肩背棒先:『横・堤』の文字。
⑧宝
銘

松並師の銘です。
オリジナルの彫刻等
10年以上前に撮影したものになりますが、小屋に飾られている改修前の彫刻を見せて頂きましたのでご紹介したいと思います。

現在の獅子噛の下絵が飾られています。

上から
大屋根前方:『獅子噛』
大屋根後方:『獅子噛』
小屋根:『獅子噛』
彫清の獅子噛です。

大屋根前方
懸魚:『猿に鷲』
桁隠し:『麒麟』
大ぶりな麒麟の桁隠しが魅力的です。

小屋根
懸魚:『鳳凰』
桁隠し:『鶴』
オリジナルでは通常大屋根側に来がちな『鳳凰』の題材が小屋根側にあり、小屋根側に来がちな『猿に鷲』の題材が大屋根側にある、少し他所とは違いを持たせた仕様でした。

柱巻き:『昇龍』
現在は昇龍・降龍ですが、オリジナルは昇龍ペアだったようです。
中央に飾られているのは相撲の番付表で、大正八年と書かれています。村の相撲大会か何かで作ったものでしょうか?

木鼻:『力神』
木鼻は現在の地車にもオリジナルがついているので、両サイドにある唐獅子は腕木についていたものでしょうか?
また、オリジナルでは木鼻の上に力神が乗っていたことが分かります。

箱棟・勾欄合・縁葛
沢山あって書ききれません。
ただ、これだけ沢山きちんとオリジナルの彫刻を見える状態で保管・展示してあるのは素晴らしいことですね。

土呂幕:『源平合戦』
左上の彫刻に扇の的の表現がありますから、那須与一と思われます。
オリジナルの土呂幕は源平合戦が題材だったのではないでしょうか。
いかがでしたでしょうか。
松並師の彫刻を持つ数少ない地車の1台で、オリジナルの彫刻との融合が素晴らしい作品でした。
勾欄合・台木等、個性溢れる彫刻が施されている部分もありますので、是非その点に注目して見学されてみてはいかがでしょうか。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。