
皆さんこんにちは。
最近は比較的新しい地車の記事続きですが、もう一台どうしても記事にしたい地車がありまして…それが今回ご紹介する大東市の灰塚地車です。
少し前に記事にした藤井寺市野中地車と同時期に大下工務店より誕生した折衷型で、個人的に推している菊池侊藍師の龍画が取り入れられている作品として、以前より絶対に見たいと思っていました。
新調より数年経ってしまいましたが、念願叶って今年の大東だんじりフェスティバルで見る機会を得ましたので、取材してきました。
それではご覧ください。
大東市素戔鳴神社 灰塚地車
◆地域詳細
宮入:素戔鳴神社
小屋所在地:神社境内
歴史:灰墓とも称した。春日社記録の弘安10年2月15日条に「灰墓庄間事、社解令進候」とあるのが初見。
◆歴代灰塚地車
・三先代:東大阪市北蛇草より購入、戦後に東大阪市横枕へ売却し、東大阪市中小阪へ譲渡されるが、老朽化につき消息不明。
・先々代:昭和58年に太鼓正より購入、先代地車購入に伴い、河内長野市汗成塾育成会へ。
・先代:明治期製作の住吉型で、平成17年に河内長野市西代より購入。現地車新調に伴い、東大阪市中新開へ。
・現地車:令和4年新調、折衷型。
◆地車詳細
形式:折衷型
製作年:2022年(令和4年)
大工:大下工務店
彫刻:木下彫刻工芸・辰美工芸
参考)
地域の歴史について
角川書店 『角川日本地名大辞典 27 大阪府』
歴代灰塚について
山車・だんじり悉皆調査 https://www5a.biglobe.ne.jp/~iwanee/
姿見

左が前方、右が後方
先代は大規模に改造された住吉型を所有されていましたが、新地車は折衷型となりました。
先代地車の頃は確かやりまわしのようなこともしていたような…?認識でしたので、新しい地車には後梃子や旗設備が付くのではないかと思っていましたが、いずれも持たない大阪型寄りの仕様となりました。

側面より
同時期に同じ工務店で生まれた地車として、藤井寺市野中地車がありますが、灰塚地車は勾欄が大屋根下のみとされ、三枚板のスケール感も細かく緻密なものとなっています。

斜め前より
白の昼提灯が個性的で、格好良いです。

斜め後より
破風

勾配の控え目な破風です。
大屋根切妻型、小屋根入母屋型とされています。
枡組

五段二手先となっています。
隅出

右面大屋根側
前方:『紅葉に鹿』
後方:『牡丹に蝶』

左面大屋根側
前方:『梅に鶯』
後方:『萩に猪』
それぞれの面で異なる題材とされており、拘りを感じました。
桁にも極力素地の部分を残さないよう細かい彫刻が施されています。
鬼板

上から
大屋根前方:『獅子噛』
大屋根後方:『獅子噛』
小屋根:『獅子噛』
3面とも獅子噛となっています。目玉の加減で大屋根側と小屋根側は少し印象が異なります。
箱棟

箱棟:『龍』
懸魚・桁隠し

大屋根前方:『天の岩戸』
懸魚・桁隠し一体で天の岩戸が表現されています。
縁起が良く、正面の目立つところに神話の題材はやはり良いですね。

大屋根後方:『鶴』

小屋根:『豊臣秀吉 醍醐の花見』
小屋根側も懸魚・桁隠し一体の題材で、満開の桜が華やかな印象を与えます。
車板・枡合・虹梁

大屋根前方上から
車板:『素戔嗚尊 八岐大蛇退治』
枡合:『【太平記】楠公子別れ 桜井の駅』
虹梁:『【信長公記】桶狭間の合戦』
前方の車板は御祭神の素戔嗚尊と言えば!の題材が選定されました。

小屋根
車板:『石川五右衛門香炉盗り』
枡合:『【太平記】楠木正行 如意輪堂 辞世の句』
車板の題材は岸和田市中北町とその先代にあたる南上町の土呂幕に施されていることで有名ですね、上地車での採用例は初めて・・・?
一番よく見たい題材ですが、懸魚に隠れがちでなかなか見えないのが惜しいです。
枡合・虹梁

右面大屋根側
枡合:『【太平記】村上義光 錦の御旗奪還』
虹梁:『【信長公記】熱田神宮 戦勝祈願』
枡合は太平記、虹梁は信長公記で統一されています。

右面小屋根側
枡合:『【太平記】児島高徳 桜木の漢詩』
小屋根の隅出は『あかよろし』・『みよしの』の文字がある通り、花札の要素をかなり前面に出した彫刻が施されています。

左面大屋根側
枡合:『【太平記】新田義貞 稲村ヶ崎』
虹梁:『【信長公記】本能寺の変』
枡合の題材は刀を手に持っている姿が彫刻されるのが通例ですが、手放して投げている様子が彫刻されています。

左面小屋根側
枡合:『【太平記】後醍醐帝壱岐より帰る』
木鼻

上が右面、下が左面
木鼻:『親子唐獅子』
全身彫刻の唐獅子で、全て親子になっています。
柱巻き

まずは全景から。

柱巻き:『獅子の子落とし』
同時期に誕生した藤井寺市野中地車も、柱巻きに獅子の子落としの題材です。
同じ題材なのでよく似た作品なのかと勝手に思っていましたが、見比べると結構違いました。
車内枡合・虹梁

前方
車内枡合:『羽衣天女』
車内虹梁:『龍』

後方
車内枡合:『鳳凰?』
車内虹梁:『宝』
ピントが上手く合っていませんが、後方側は他3面とは異なる題材とされています。
最近は宝を飾る場所もとても自由で、灰塚地車はこの位置に配置されました。

右面
車内枡合:『羽衣天女』
車内虹梁:『龍』

左面
枡合:『羽衣天女』
虹梁:『龍』
天蓋

天蓋:『天龍と共に』
個人的にこの絵を見に灰塚地車を見に来たと言っても過言ではない、彫刻師・仏画師の菊池侊藍師の作品です。
大変格好良いですね。
青年団の方にカメラをお渡しして、撮影していただきました。ありがとうございました。
脇障子

脇障子:『【太閤記】大徳寺焼香の場』
三枚板・脇障子・角障子・縁葛

正面
三枚板・角障子:『【太閤記】賤ヶ岳合戦佐久間乱入』
縁葛:『【大江山の鬼退治】酒呑童子退治』
三枚板・角障子をスペースいっぱい使って佐久間の乱入が表現されています。
縁葛は限られたスペースでの酒呑童子退治ですが、首を斬られた酒呑童子がそれでもなお兜にかぶりついている様が表現されています。

三枚板をアップで。
いつの時代も人気の題材です。

別の角度から。
灰塚の佐久間さんも大きく口を開けて、突っ込んでいますね。

迎え討つ武将も怯むまいと、グッと堪えたこの表情。

角障子:『【太閤記】賤ヶ岳合戦佐久間乱入』

豊臣秀吉をアップで。

右面
三枚板・脇障子・角障子:『【難波戦記】大阪夏の陣幸村之勇姿』
縁葛:『【大江山の鬼退治】三神の化身に神器を授かる』
こちらも大人気の武将、真田幸村が家康本陣を急襲する様子が彫刻されています。

真田幸村をアップで。

角障子:『【難波戦記】大阪夏の陣幸村之勇姿』
打ちのめされている雑兵や逃げる徳川家康等、真田幸村の攻撃により、阿鼻叫喚している様子がとてもよく表現されています。

左面
三枚板・脇障子・角障子:『【太閤記】藤吉郎富士川之初陣』
縁葛:『【大江山の鬼退治】頼光土蜘蛛退治』
こちらの題材もよく登場はしますが、三枚板を使って盛大に彫刻されたのは灰塚地車が初ではないでしょうか。
背景のど真ん中を富士川が占め、伊藤日向守を狙う木下藤吉郎の姿が彫刻されています。

伊藤日向守と藤吉郎をアップで。
斬りかかってくる伊藤日向守に怯まず、馬を槍で一突き!

角障子:『【太閤記】藤吉郎富士川之初陣』
勾欄合・縁葛

前方
勾欄合:『百鬼夜行』
縁葛:『【大江山の鬼退治】鬼城 酒宴の場』
縁葛は三枚板の欄でも紹介しましたように、大江山の鬼退治となっており、全面共通となっています。
鬼滅の刃が多少影響しているのでしょうか?明治期の地車に見られる題材ですが、間をおいて最近の地車でも採用率が高いような気がします。
面白いと思ったのが勾欄合の百鬼夜行で、過去に地車での採用例は恐らく無く、灰塚地車が初だと思います。
隅出の花札と言い、細かい場所で個性を出しています。

右面
勾欄合:『百鬼夜行』
縁葛:『【大江山の鬼退治】頼光木渡り』

左面
勾欄合:『百鬼夜行』
縁葛:『【大江山の鬼退治】茨木童子 片腕奪還』
土呂幕

前方全景
重厚な腰組が取り付きます。
装飾が主なので荷重はかかっていないと思いますが、土呂幕の脇からも腕木が出ており、腰組を支えるようになっています。
変な話題かもしれませんが、フルオーバーホールの時にどの順番で外していくのか個人的には非常に気になります。
最近の折衷型はこういった細かい装飾が多いですので、数十年後洗い掛け等をする際にとても気を使いそうです。
腰組

前方:『力神』
腰組の最下段を力神が支えます。

右前方の腰組の隅出には『寿』の文字も。
地車を上方から見た際に北東(鬼門)に当たる位置なので、お守り的な意味合い?考えすぎでしょうか?
細かな拘りが凄いので、意匠を提案された方に伺わないと分からないですね。
土呂幕

前方
土呂幕(上段):『獏』
土呂幕(下段):『【平家物語】船弁慶』
土呂幕は虹梁を挟んで上下に分かれており、下段は平家物語で統一されています。
組み物があるので、ただでさえ狭くなっている空間に大波と船と4人の表現・・・よく収まっていますね。

後方全景
腰組

後方:『力神』
後方も前方と同様に力神です。
土呂幕

後方
土呂幕(上段):『麒麟』
土呂幕(下段):『【平家物語】五条大橋の出会い』

右面全景
最近流行りの前後一続きではなく、躯体の存在をしっかりと見せ、大屋根側と小屋根側を別々の題材としてあります。

右面大屋根側
土呂幕(上段):『飛龍』
土呂幕(下段):『【平家物語】奥州 白龍昇天』

右面小屋根側
土呂幕(上段):『応龍』
土呂幕(下段):『【平家物語】風流武士 梶原景季 エビラの梅』
上段は大屋根側と小屋根側で飛龍と応龍で違いを持たせています。
一般的には飛龍=応龍の認識だと思いますが、この場合和漢三才図会の姿の方を『応龍』とし、通常の龍に翼が生えている姿を『飛龍』と呼称しています。

左面全景

左面大屋根側
土呂幕(上段):『飛龍』
土呂幕(下段):『【平家物語】八艘飛び』

左面
土呂幕(上段):『応龍』
土呂幕(下段):『【平家物語】義経 弓流し』
左面は壇ノ浦の戦い・屋島の戦い、といずれも波の表現がある題材が選択されています。
台木

右面:『波濤に玄武』

左面:『波濤に玄武』
台木の先端部の波が玄武様になっているのが特徴です。
金具

①破風中央:『唐草模様・宝珠』
②破風傾斜部:『昇龍・降龍』
③破風端部:『唐草模様』
④垂木先:『五瓜に唐花紋』
⑤台輪先:『五瓜に唐花紋』
⑥脇障子兜桁:『灰塚』の文字。
⑦縁葛端部:『唐草模様』
⑧肩背棒先:『灰・塚』の文字。
銘

大下工務店・菊池侊藍師・辰美工芸・木下彫刻工芸の銘です。
いかがでしたでしょうか。
各所に上地車として?地車として?初採用の題材や意匠が見られ、製作への拘りを感じるとても面白い地車でした。
元々エネルギッシュな祭りをされていた灰塚ですが、地車も鳴物も新しくなり、見ている方も楽しくなるノリノリのパフォーマンスをしていましたので、今後も元気な祭風景が見られることに期待したいと思います。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。