
皆さんこんにちは。
今回は久々に新しい地車の記事になります。
新調されてから数年経ちましたが、私がずっと見たくて仕方が無かった一台で、先日ようやく念願叶って見ることが出来ました。
野中は羽曳野の誉田・白鳥地区に隣接した地域で、行政区域は藤井寺市になります。
藤井寺市の地車は曳き唄を歌う地区や、泉州風に少し走ったりする地区がありますが、その分かれ方は市内の北部・南部、隣接する市による、といったものではなく、本当に入り乱れた形態となっています。(何なら太鼓台もあります)
そのような中、野中は基本練り歩くスタイルで掛け声は「こりゃせー」ですので、どちらかと言えばお隣の誉田・白鳥地区の昔ながらの曳行スタイルに近しい印象を受けます。
新調にあたりどの形状の地車にするか議論されたことと思いますが、折衷型が採用され、彫刻が豊富な立派な地車を製作されました。
それではご覧ください。
藤井寺市野中神社 野中地車
◆地域詳細
宮入:野中神社
小屋所在地:神社境内
◆地車詳細
形式:折衷型
製作年:2022年(令和4年)
大工:大下工務店
彫刻:木下彫刻工芸・辰美工芸
姿見

左が前方、右が後方。
地車の形態は折衷型で、旗設備無し・後ろ梃子無しとされています。
大下工務店からは平成後期に東大阪市や大東市でも同じ形態の折衷型が誕生しており、令和に入ってからは野中が初となります。
先代地車は後ろ梃子があったので、地車の操作感はかなり変わっただろうと思います。

側面より
脇障子で一旦縁は切れますが、あえて後方までしっかりと勾欄がまわされているのが特徴です。
近年の流行り通り彫刻盛り沢山の地車ではありますが、輪郭がはっきりとしていますので、ゴテゴテ感を抑えたバランスの良いデザインになっています。

斜め前より

斜め後より
小屋根が軒唐破風で、垂木は隅扇垂木になっています。
小屋根側の勾欄の架木は途中で縁を切っており、三枚板の彫刻が見やすいようになっています。
破風

上が大屋根、下が小屋根。
大屋根切妻型、小屋根が入母屋の軒唐破風です。
テリが良く効いています。
枡組

四段一手先で組まれています。
横槌には『阿吽の龍』、隅出には『牡丹に唐獅子』が彫刻されています。
鬼板

上から
大屋根前方:『獅子噛』
大屋根後方:『獅子噛』
小屋根:『獅子噛』
この獅子噛を初めて見た時、まずは最近あまり見かけない厚みの凄さに驚きました。
そして、人気の彫刻師が彫った獅子噛を手本にした獅子噛を作成した。という話はたまに聞きますが、最近の地車でまさか九代目小松源助の作品を手本にした作品が生まれるとは思っていませんでした。
お気づきの方は多いかと思いますが、モデルになった作品はこちら。

銘車と名高い、東灘区弓場地車です。
鬣の渦の配置・手の表現・歯の本数等同じで、特徴ある大きな上唇や三日月の模様が入った目玉等を見ると、モデルにされていることがよく分かるかと思います。
箱棟

箱棟:『登龍門』
後方から前方に向かって鯉が龍になる様子が彫刻されています。
葺地にも雲海がびっしりと彫刻されており、豪華です。
懸魚・桁隠し

大屋根前方全景

大屋根前方
懸魚:『飛龍』
桁隠し:『龍』
この場所は古風かつ上地車らしく獣の題材が採用されました。

大屋根後方
懸魚・桁隠し:『龍』
少し見えにくいですが、後方にもしっかりと彫刻が施されています。

小屋根全景

小屋根
懸魚:『親子獅子』
桁隠し:『牡丹に唐獅子』
懸魚・桁隠し合わせて5体もの唐獅子が彫刻されています。
中央の親獅子が正面を向いているのも良いですね。
車板・枡合・虹梁

大屋根前方
車板・枡合・虹梁:『朱雀・青龍』
懸魚と同様に妻側の屋根まわりは上地車らしく獣の題材が採用されました。
また、題材は前後合わせて『四神』が表現されています。
宝飾りは三枚板周囲に配置するのが定番ですが、最近ではそうとも限りません。
前方側に持ってきて彫刻と融合するように配置されたのは野中地車が初ではないでしょうか。

小屋根
車板・枡合:『白虎・玄武』
枡合・虹梁

右面大屋根側
枡合:『神功皇后 応神天皇平産す』
虹梁:『加藤清正 新納武蔵守一騎討ち』
平側は大屋根枡合は神話、虹梁と小屋根枡合は戦国時代を題材としています。
どの面も非常に奥行きのある作品になっているのが特徴です。
また、上地車では珍しく枡合下がりが設けられており、『雲海に鶴』の題材が彫刻されています。

右面小屋根側
枡合:『桶狭間の戦い』

左面大屋根側
枡合:『素戔嗚尊大蛇退治』
虹梁:『賤ヶ岳合戦 福島正則 拝郷五左衛門を討つ』

左面小屋根側
枡合:『本能寺の変』
奥行きが深く、全体的に引きの構図とされていますので、枡合にも関わらず登場人物が非常に多いです。
木鼻

上が右面、下が左面
木鼻:『阿吽の唐獅子』
様々なものを持っています。米俵には小さな鼠も彫刻されていますね。
柱巻き

柱巻き全景

柱巻き:『獅子の子落とし』
柱巻きの題材は東大阪市横沼地車から着想を得たものでしょうか。
野中地車と同時期に誕生した大東市灰塚地車にも同じ題材が採用されています。
天蓋

天蓋:『明星』(舞台天井龍画)
個人的にはこれを目当てに野中地車を見に来たと言っても過言ではありません。
今非常にアツい木彫刻師・仏画師の菊池侊藍師の作品です。
外からは見えにくいので、関係者の方にカメラをお渡しして撮影していただきました。ありがとうございました。
私が菊池師を知ったのは佐原の東関戸区幣台が初めてだったのですが、それ以来すっかりファンになっています。
先ほど柱巻きで取り上げた大東市灰塚地車にも師の作品が納められているようで、いつか見てみたいところです。
今後も地車で師の作品が見れたら嬉しいですね。
車内虹梁

前方:『牡丹に蜻蛉』

右面:『牡丹に蜻蛉』
虹梁の車内側にも彫刻が施されており、豪華です。
車内枡合・虹梁・花戸口虹梁

車内枡合:『瓢箪から駒』
車内虹梁:『彦國葺命』
御祭神の彦國葺命が沈め彫りで彫刻されています。

花戸口虹梁:『牡丹』
小さい持送りサイズで牡丹の彫刻が施されています。
脇障子

脇障子:『秀頼 淀君の最期・千姫を解放す』
脇障子・三枚板・角障子

正面:『誉田合戦 真田幸村勇戦』
お待ちかね、三枚板です。
細かな彫刻の枡合とは対照的に、非常に大振りでダイナミックな彫刻が施されています。
最近の三枚板は少し前の時代と比べて大振りな彫刻がトレンドのようですが、明治時代の住吉型と同様のスケール感なので、回帰しているとも言えます。
3面共地元の藤井寺市近傍で起きた合戦を題材にしており、こちらはお隣の羽曳野市で起きた合戦が題材です。

真田幸村から転げまわって逃げる雑兵が表現されています。

角障子:『真田大助・伊達政宗』
角障子も三枚板の題材と一体になっています。

右面:『道明寺合戦 薄田隼人勇戦』
地元、藤井寺市で起きた合戦が題材です。

薄田隼人と言えば大きな棍棒を振りかざす姿が印象的ですが、人物のスケール感に合わせて武器の大きさも大きく表現されています。
こんな重量物を振り回していたら、そりゃ恐ろしいですよね。

脇障子・角障子:『水野勝成』

左面:『小松山合戦 後藤又兵衛勇戦』
藤井寺市のお隣、柏原市で起きた合戦が題材です。

雑兵を槍で軽々と持ち上げており、後藤又兵衛の強さが一目見て分かる表現となっています。
どちらも良い表情ですね。

脇障子・角障子:『片倉小十郎』
勾欄合・縁葛

前方
勾欄合:『野中神社 建立す (造営を高覧す・野中神社参詣・修羅曳き)』
縁葛:『矢矧橋の出会い』
大屋根側の勾欄合は地元の野中神社に関する題材、小屋根側の勾欄合と縁葛は豊臣秀吉に関する題材で統一されています。
三枚板から一転、再び細かい彫刻が施されています。

後方
勾欄合:『秀吉一代記 (秀吉北条攻め・秀吉関白となる・秀吉屈辱を忍ぶ・秀吉尼崎の難)』
縁葛:『醍醐の花見』

右面大屋根側
勾欄合:『野中神社 建立す (埴輪造り・地均し・鉄工に依る鍛造・舟工に依る造船)』
縁葛:『高松城水攻め』

右面小屋根側
勾欄合:『秀吉一代記 (藤吉郎おねを娶る・秀吉清洲城修復・秀吉正則の出会い)』
縁葛:『石川五右衛門香炉盗り』

左面大屋根側
勾欄合:『野中神社 建立す (石垣積み・石垣の石工・木挽き・飯焚き)』
縁葛:『藤吉郎初陣』

左面小屋根側
勾欄合:『秀吉一代記 (日吉誕生・藤吉郎草履取り・日吉光明寺の場)』
縁葛:『大徳寺焼香の場』
腰組・柱巻き

前方:『獬豸・麒麟』
腰組は五段二手先で組まれており、躯体を見せないように柱巻きが取り付けられています。
柱巻きの題材は前後とも瑞獣で統一されています。

後方:『海馬・獏』
土呂幕

前方全景
立派な腰組があるので、土呂幕ですが枡合のような雰囲気もあります。
野中地車の場合は、腕木を柱から少し中央寄りに設け、その区間を腰組で埋めるデザインになっています。
組み物はありますが、実際は奥に柱が通されていますので、組み物自体に荷重はかかっていません。
折衷型や大阪型に腰組を設ける仕様は近年流行っていますが、そのデザインはもう行きつくところまで行っているのではないでしょうか。
これ以上複雑なものは出てこないような気がします。

前方
上段:『唐獅子』
下段:『家康本陣 幸村急襲』
土呂幕は虹梁を挟んで、上段と下段に分かれています。
上段は獣の題材、下段はいずれも難波戦記から題材を得ています。

後方全景

後方
上段:『唐獅子』
下段:『木村重成勇戦』

右面全景
前後で一続きの題材となっていますが、組み物と虹梁を設けることで、しっかりと躯体の存在を強調した締まりのあるデザインとなっています。

右面大屋根側
上段:『麒麟』
下段:『荒川熊蔵 本多忠朝一騎打ち』
こちらが荒川熊蔵。

右面小屋根側
上段:『獏』
下段:『荒川熊蔵 本多忠朝一騎打ち』
こちらが本多忠朝、勢いよく川を飛び越えようとしています。

左面全景

左面大屋根側
上段:『麒麟』
下段:『樫井の戦い 塙団右衛門』
特に記載はありませんが、この場面で対峙している人物と言えば亀田高綱でしょうか。

左面小屋根側
上段:『麒麟』
下段:『樫井の戦い 塙団右衛門』
狙われる塙団右衛門直之。
台木

右面:『波濤に鯉』
台木を見て真っ先におっ!となったのが、端部の龍です。
オリジナリティを出すために、台木に隠し気味に蛙を配置する等は見たことがありましたが、この表現は初めて見ました。良いデザインですね。

左面:『波濤に鯉』
金具

①破風中央:『唐草模様』
②破風傾斜部:『昇龍・降龍』 昇龍のみになっていることが多いですが、しっかり昇龍・降龍の組み合わせになっているのがポイントです。
③破風端部:『唐草模様』
④垂木先:『五瓜に唐花紋』
⑤台輪先:『野中』の文字。
⑥脇障子兜桁:『野中』の文字。
⑦縁葛:木彫で『牡丹に唐獅子』 一番目を惹いたのが縁葛で、一般的には金具で表現される箇所が木彫で表現されており、金物で縁取りされています。
⑧肩背棒先:『野・中』の文字。
子供地車

これまで第一線で活躍してきた先代地車は、子供地車としてそのまま野中の地で大切にされることになりました。
保管場所さえあれば、このような第二の人生の過ごし方はとても良いですね。
いかがでしたでしょうか。
隅々まで拘って製作されたことが伺える素晴らしい一台でした。
野中地車は大阪・関西万博の『大阪ウィーク~春~』に藤井寺市代表として出展することが決定しています。
他の市町村も合わせて40台以上もの地車が集まるイベントで、世界中の人々の目に触れること間違いなしですね。
イベントは5/9~10に開催されますので、是非注目して見てみたいところです。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。