
皆さんこんにちは。
今回は公式に新地車購入に伴う地車売却が発表されている堺市福町上地車を、福町上時代の姿をしっかりと記録に残すべく記事にしたいと思います。
売却に関する詳細はこちら→https://www.instagram.com/fukukami_yushikai/
福町上は有志で曳行されている地車で、少し前までは河内長野市三日市北部で曳行されていた古い堺型を曳行していましたが、平成25年に堺市太平寺で曳行されていた堺型を購入・改修し現在に至ります。
平成22年以降は阿弥陀池パレードにも参加しており、非常に賑やかにお祭りをされています。
個人的には練り廻しの時の愉快な掛け声がとても好きで、軽快な鳴物の音色と相まって絶妙にハマってしまう良さがあります。
写真は全て2019年に撮影したもので、試験曳きの日に関係者の方に許可を頂き、小屋内で撮影をさせて頂きました。
それではご覧ください。
堺市中区愛宕神社福町上地車
◆地域詳細
宮入:愛宕神社
小屋所在地:会所に隣接
歴史:現在の住所表記の福田は符久田・府久田とも書き、福町とも俗称した。
水利が悪いため井戸灌漑を主とした畑作の商品作物栽培が多く、綿・大豆・琉球芋等が作られた。明治初期頃から木綿織にかわって製糖業が盛んになる。
◆地車詳細
形式:擬宝珠勾欄堺型(元・板勾欄堺型)
製作年:明治時代
購入年:2013年(平成25年)
大工:堺の大工
彫刻:彫又一門
改修年①:1994年(平成6年)
改修大工①:植山工務店
改修彫刻①:井尻彫刻所
改修年②:2013年(平成25年)
改修大工②:泉谷工務店
改修彫刻②:木彫前田工房
歴史:堺市野代→堺市太平寺→堺市福町上
◆歴代福町上地車
・先々代(初代):昭和55年に寄贈を受ける、子供地車で昭和24~25年に岸和田市松風町製作。
・先代(2代目):擬宝珠勾欄堺型、平成19年に河内長野市三日市北部より購入。現地車購入に伴い、守口市八雲南へ。
・現地車(3代目):平成25年、堺市太平寺より購入。
参考)
地域の歴史について
『角川日本地名大辞典 27 大阪府』
改修年・歴代福町上地車について
『山車・だんじり悉皆調査』 https://www5a.biglobe.ne.jp/~iwanee/
姿見

左が前方。
まだ小屋内に居る状態で撮影させて頂きましたので、後方は撮影出来ていません。
彫刻を残して構造躯体は交換されていますので、見た目は非常に新しい印象を受けますが、実は明治生まれの歴史ある地車です。

斜め前より
元・板勾欄型ですが、その面影はありません。
破風

太平寺時代の平成6年に植山工務店にて屋根まわりが全て交換されています。
鬼板

上から
大屋根前方:『獅子噛』
大屋根後方:『獅子噛』
小屋根:『獅子噛』
上丹生彫の作品が取り付けられています。
偶然にも近隣の西中とは1年違いで工務店入りしているため(西中は平成5年新調)、作風がとても似ています。
懸魚・桁隠し

大屋根前方
懸魚:『鳳凰』
桁隠し:『雲海』

小屋根
懸魚:『鳳凰』
桁隠し:『雲海』
車板・枡合

大屋根前方
車板:『飛龍』
枡合:『牡丹に唐獅子』
綺麗にオリジナルが残っています。
野代時代の写真を確認すると、殆ど欠損しつつも辛うじてついている虹梁の彫刻が確認出来ましたので、元は二重虹梁仕様であったと思われます。

小屋根
車板:『鶴』
枡合:『牡丹に唐獅子』
枡合

右面大屋根側:『牡丹に唐獅子』

右面小屋根側:『牡丹に唐獅子』

左面大屋根側:『牡丹に唐獅子』

左面小屋根側:『牡丹に唐獅子』
木鼻

上が右面、下が左面。
木鼻:『阿吽の唐獅子』
天蓋

天蓋:格子
もしかすると天蓋彫刻があったかもしれませんが、現在はありません。
花戸口虹梁

花戸口虹梁:『鶴』
両サイドの彫刻は野代時代に既に欠損していたようで、今は上部パーツのみの状態に改められています。
脇障子

脇障子:『本能寺の変・敦盛を舞う』
平成25年に福町上が購入する際に改められた部分で、木彫前田工房の銘入りです。
太平寺時代は後方まで四周ぐるりと勾欄がまわされていましたが、脇障子で区切られ、大屋根側のみ勾欄がまわる仕様となりました。
三枚板

正面:『加藤清正』
三枚板は文禄・慶長の役で統一されています。
豊臣秀吉家臣の題材が来るということは明治時代の地車ではなかろうかと思います。
角障子

角障子(後方):『神功皇后 応神天皇平産す』
角障子の題材は三枚板とは対応していないようです。

角障子(前方):『武者』
三枚板

右面全景

右面:『李舜臣』
李舜臣は朝鮮軍側の英雄です。

左面全景

左面:『加藤清正虎退治』
再び加藤清正が登場しています、板勾欄型の三枚板に退治系の題材は定番ですね。
摺出鼻

右面:『花鳥風月』

左面:『花鳥風月』
私が堺型地車で好きな部分の一つです。こちらも良い彫刻がしっかりと残っています。
旗台

旗台:『力神』
勾欄合

前方:『日本昔話(一寸法師・金太郎・桃太郎・花咲爺)』

右面:『日本昔話(笠地蔵・舌切雀・浦島太郎・瘤取り爺)』

左面:『日本昔話(猿蟹合戦・かぐや姫・かちかち山・鶴の恩返し)』
こちらも脇障子同様、福町上へ嫁ぐ際に新調された作品です。
持送り

持送り:『谷越獅子』

持送り:『松・竹』
オリジナルの腕木が残っていました。

平側は間柱のみ持送りが存在します。
堺型あるあるの土呂幕を強引に切り欠いた乱暴な貫腕の通し方をされていないのが非常に良いところですね。
恐らくですが、オリジナルの状態で四周をぐるりとまわす一般的な肩背棒が取り付けられていたと思われます。
土呂幕

前方:『竹に虎』
花戸口形状になっておらず扉式です、閂が存在していた跡もないですね。

後方:『五條大橋の出会い』

右面(前)
上段:『林和靖』
下段:『牡丹に唐獅子』

右面(中)
上段:『呂尚』
下段:『牡丹に唐獅子』
公式発表の資料から、前方と中央はこの題材とのこと。初めて知りました。

右面(後)
上段:『董奉』
下段:『牡丹に唐獅子』

左面(前)
上段:『琴高仙人』
下段:『牡丹に唐獅子』

左面(中)
上段:『黄安仙人』
下段:『牡丹に唐獅子』

左面(後)
上段:『鉄塊仙人』
下段:『牡丹に唐獅子』
その他に関してはお馴染みの仙人揃いです。
下勾欄

右面:『波濤に千鳥』

左面:『波濤に千鳥』
台木

右面:『波濤に鯉』

左面:『波濤に鯉』
オリジナルは彫刻のない角台木だったようです。
普段からよくオリジナルが…とは言いますが、江戸・明治の地車は製作から100年~200年経ち、今日も安全に曳行するには改修が必要不可欠になってきていますので、やりまわし対応のために足回りが近代化改修されているのは泉州で活躍する上地車の良いところですね。
金具

①破風中央部:『雲海に宝珠』
②破風傾斜部:『昇龍』
③垂木先:『桜紋』
④台輪:『違い剣紋・木瓜紋に上の文字』
⑤縁葛端部:『牡丹に唐獅子』
⑥肩背棒先:『福上』の文字。
いかがでしたでしょうか。
堺で生まれ、2度別の土地へ嫁ぎ改修を受けながらも堺で活躍し続ける堺型地車。なかなか他には無い存在なのではないでしょうか。
無事に次の嫁ぎ先が見つかり、また活躍している姿を見れることを楽しみにしています。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。