
皆さんこんにちは。
2025年初の記事となります、今年も当サイトをよろしくお願いいたします。
さて、今回は先日工務店入りしたと情報が入ってきました東灘区小路の地車を記事にしたいと思います。
小路區は保久良神社に宮入を行っており、本山だんじりパレードにも登場する1台です。
以前より度々見学に訪れており、かなり特徴がある地車ですので、いつか記事にしたいなぁと思いつつ気づけば約10年が経過してしまいました・・・
小路地車は過去に度々改修を受けていますが、オリジナルの彫刻がよく残っているので、大型化の苦労や、積み重ねてきた歴史を感じることが出来る作品となっています。
それではご覧ください。
神戸市東灘区保久良神社/小路八幡宮 小路地車
◆地域詳細
宮入:保久良神社
小屋所在地:会所に隣接
◆地車詳細
形式:神戸型 (元・大阪型)
製作年:1892年(明治25年) (平成4年の改修時に新調年が書かれた布が地車より見つかる)
購入年:1929年(昭和4年)3月
大工:不明
彫刻:不明
改修年①:1992年(平成4年)
改修大工①:神戸インテリア工芸
改修彫刻①:井岡勘治 (主に補修)
改修年②:2001年(平成13年)
改修大工②:平間勝利
改修彫刻②:酒井宏
歴史:河内國魂神社氏子地域(改修前は鳥衾に河内國魂神社の神紋がついていたことに因る)→(この間に中島畳店を経由した説もあり)→打出の細谷吉左衛門→東灘区小路
参考)
製作年・改修・歴史について
木村清弘 著 『だんじりが百倍楽しめる本』
平成13年の改修について
山車・だんじり悉皆調査 http://www5a.biglobe.ne.jp/~iwanee/
姿見

左が前方、右が後方。
小路區と言えば、屋根まわりに特徴がありますね。詳細は後述します。
神戸方面ではよくある話ですが、オリジナルの状態からかなり大型化改造が行われており、幅に対して背丈が高く、独特な縦長のシルエットとなっています。

側面より
オリジナルの彫刻がよく残っており、元は大阪型であったと考えられる一台です。

斜め前より
破風

切妻型ですが、大型化のためにオリジナルの破風の上に一回り大きい破風をもう一つ重ねており、一般的に言われる二重破風とは少し違う方向性で二重破風、となっています。
神戸インテリア工芸で改修を受けた地車に同様の例があり、(その後更に改修を受けたため今では違いますが)野寄區も少し前までは同様の破風形状をしていました。
枡組

シンプルに出三斗組となっています。
これは平成13年の改修時に組み込まれたもので、オリジナルは大阪型や北河内型でよく見られる柱桁直結タイプでした。
その名残として仕口部分を隠す役割の彫刻が現在は腕木の部分に取り付けられています。
後ほど取り上げたいと思います。
鬼板

上から
男屋根前方:『獅子噛』
男屋根後方:『獅子噛』
女屋根:『獅子噛』
3面共獅子噛で統一されています。
気になる表情ですが、結論から述べますと作者はよく分かりません。
一番それらしいところで顔つきが服部一門風の印象を受けるのですが、手付きが服部では見ない雰囲気をしています。そもそも明治25年頃の服部の例が無いので果たしてどうなんだろうといったところ。
違うよなぁと思いつつ…8代目小松源助らしい要素も感じなくはないのですが、これも明治25年だと年代が違います。9代目の作風では絶対無いので、やはりよく分かりません。
箱棟

箱棟:『龍・雲海』
懸魚・桁隠し

男屋根前方
懸魚:『鳳凰』
桁隠し:『朱雀』

女屋根
懸魚:『猿に鷲』
桁隠し:『猿』
車板

前方:『宝珠を掴む青龍』
平成13年の改修で組物は追加されましたが、屋根まわりの彫刻はオリジナルを残してくれています。
獅子噛の欄では作者がよく分からないと述べましたが、この龍に似ている作品は1台見つけました。
和歌山県橋本市の橋谷地車です。
橋谷地車も大阪市内代地車と並んで服部?辻田?小松?等と作者が謎だと言われている1台で、製作時期も小路地車と同じ明治時代の作品です。
今後何かが解明された時のために、これらの地車達は関連付けしておいた方が良さそうです。

女屋根後方:『谷越獅子』

右面男屋根側:『谷越獅子』

右面女屋根側:『牡丹に唐獅子』

左面男屋根側:『牡丹に唐獅子』

左面女屋根側:『谷越獅子』
木鼻

木鼻:『阿吽の唐獅子』
平成13年の改修で交換されました。神戸ではお馴染み、酒井宏師の作品です。
飛獅子

組み物の追加・破風の大型化が行われていますが、元あった場所にしっかりと残されているところに拘りを感じます。
脇障子

脇障子:『鴬・孔雀』
武者ではなく、花鳥モノでした。
水引幕

水引幕:『珠取り龍』
幕は昭和5年頃に淡路に買いに行ったもので、縫師は梶内近一師とのこと。
当時、地車を購入した金額より、幕の金額の方が高かったことで有名だったそうです。
見送り幕

見送り幕:『壇ノ浦の戦い』
扇の的が見えますね。

見送り幕:『壇ノ浦の戦い』
那須与一はこちらに居ました。

見送り幕:『壇ノ浦の戦い』
勾欄合

前方:『牡丹に唐獅子』

後方:『牡丹に唐獅子』

右面:『牡丹に唐獅子』

左面:『牡丹に唐獅子』
全て牡丹に唐獅子で統一されています。
縁葛

前方

後方

右面

左面
様々な風景が彫刻されています。
腕木

枡組の欄で記述しました、元々は柱桁直結タイプだった名残の彫刻が腕木に移設されています。
唐獅子は元・木鼻の部材、力神は木鼻の上に乗り仕口を隠す部材だったものです。

腕木:『阿吽の唐獅子・力神』
土呂幕

前方:『波濤に兎』

後方:『金太郎・鬼若丸』
元は花台か角障子だったパーツでしょうか?

右面男屋根側:『波濤に兎』

右面女屋根側:『波濤に兎』

左面男屋根側:『波濤に兎』

左面女屋根側:『波濤に兎』
大阪型からの改造であれば幕式であった可能性も考えられましたが、オリジナルでも彫刻があったことが伺えます。
偶然か必然かは分かりませんが、車板の欄で引き合いに出した橋本市橋谷地車や大阪市内代地車も土呂幕には『波濤に兎』の彫刻が入っています。
作風が似ているかと言われると、あまり似ているようには感じません。
しかし、土呂幕に『波濤に兎』が定番の題材かと言われると、そうではないので、やはり関連性が気になるところです。
台木

右面:『波濤に鯉』

左面:『波濤に鯉』

前方・後方:『波濤に鯉』

上が右面、下が左面:『波濤に鯉』
台木は平成13年の改修で交換されています。滝登りをイメージしてか、上向きの鯉が多くいるのが特徴です。
金具

①破風中央:『宝珠・唐草模様』
②破風傾斜部:『昇龍』
③破風端部:『唐草模様・波濤』
④垂木先:『五瓜に唐花紋』
⑤脇障子兜桁:『左三つ巴紋』
⑥跳勾欄:『左三つ巴紋』
⑦縁葛:『波濤に松』
⑧台木先:『小路』の文字。
いかがでしたでしょうか。
今回の工務店入りは祭礼まであと数か月のタイミングですので、大改修と言うよりは締め直しかと思われますが、どのような姿で戻ってくるのか、完成がとても楽しみですね。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。