
皆様こんにちは。
先週5/18はどのように過ごされましたでしょうか?
この日は各所でだんじりイベントが行われており、タイムスケジュールを組むのが大変難しかったのですが、私がここ数年どうしても見たかった一台をようやく見ることが出来る絶好の機会に恵まれましたので、逃さず大阪市の鶴見緑地へと足を運びました。
鶴見区浜は6月の最終週の土日に祭礼を行っており、マニアにとっては大阪市内の夏のだんじり祭りシーズンの到来を告げるトップバッター的存在です。
これまでは彫忠で製作された地車で祭礼を行っており、私もその時に訪れたことがあったのですが、令和4年に植山工務店×岸和田木彫会の超豪華メンバーにて純国産の地車を新調されました。
新調から3年の月日が経ちましたが、その存在感は圧倒的なもので、この日も浜地車にカメラを向ける方が多数いらっしゃったように見受けられました。
下地車が好きな方、平成以降の地車彫刻が好きな方には是非見て頂きたい一台です。
それではご覧ください。
大阪市鶴見区古宮神社 浜地車
◆地域詳細
宮入:古宮神社
小屋所在地:神社境内
歴史:古川右岸の自然堤防洲に位置する。浜村は古川筋舟運の要津で、枝切街道沿いに船問屋や船大工が集まっていた。また、古来より河内蓮根の産地として知られ、茄子も特産品の一つ。
◆地車詳細
形式:折衷型
製作年:2022年(令和4年)
大工:【植山工務店】佐野和久
彫刻:【岸和田木彫会】片山晃 岸田恭司 近藤晃 筒井伸 前田暁彦 山本陽介
◆歴代浜地車
・往古は太鼓を鳴らして町を練った。
・先々代(初代):昭和27年に茨田大宮の川東仙太郎氏より寄贈。先代地車購入に伴い茨田大宮へ里帰りし、保管中。
・先代(2代目):平成元年に太鼓正より彫忠の地車を購入。現地車新調に伴い、太鼓台へと改造される。
・現地車(3代目):令和4年新調、折衷型。
参考)
地域の歴史について
角川書店 『角川日本地名大辞典 27 大阪府』
歴代浜地車について
『山車・だんじり悉皆調査』 https://www5a.biglobe.ne.jp/~iwanee/
姿見

左が前方、右が後方
令和4年新調、3年経ちましたがまだ出来立てホヤホヤの地車です。
大阪市内では珍しい後梃子ありの折衷型で、大屋根切妻型・小屋根入母屋型の破風になっています。

側面より
立派な組み物が入り、勾欄は大屋根側で止まる仕様。
下勾欄は持たず、土呂幕は前後一続きで一つの題材とする、最近の流行りに則った仕様となっています。
もう一つ特筆しておきたいのが、梯子を地車本体に取り付けていないこと。
地車によっては脇障子や勾欄を使って上手く屋根によじ登ることが出来るため取り付けていないものもありますが、浜地車は彫刻だらけですので確実にそうはいきません。
屋根への乗降は都度タケノコ梯子で行っており、手間こそ増えますが、浜の皆様の拘りを感じました。

斜め前より
破風

勾配は控え目で、テリがよく効いた形状をしています。
枡組

五段二手先で組まれています。
鬼板

上から
大屋根前方:『獅子噛』
大屋根後方:『獅子噛』
小屋根:『獅子噛』
岸田恭司師の作です。
角があり、大屋根側は2本、小屋根側は1本生えています。
大きな口と手が恐ろしく、しっかりと前方を睨みつけています。
箱棟

箱棟:『雲海に鷲・千鳥』
懸魚・桁隠し

大屋根前方
懸魚:『鳳凰』
桁隠し:『青龍・白虎』
鳳凰は正面を向いているのが特徴です。
懸魚・桁隠しで四神のうちの三神が揃っているので、あとは台木の玄武で四神を揃えた。という設計思想でしょうか。

大屋根後方
懸魚:『月に蝙蝠』
桁隠し:『風神雷神』
後ほど小屋根枡合にも登場しますが、地車彫刻にコウモリはなかなか珍しいのではないでしょうか。

小屋根
懸魚・桁隠し:『醍醐の花見』
一体の題材で醍醐の花見です。桜の花が一つ一つ細かく、写実的で美しいです。
車板・枡合・虹梁

大屋根前方
車板・枡合・虹梁:『天乃岩戸』
車板・枡合・虹梁が一体となり、天乃岩戸が表現されています。
本当に一体の部材としたり、部材間の切れ目が分からないようにすることも出来ますが、浜地車はあえて部材の存在が分かるように作られており、メリハリのある見た目になっています。

小屋根
車板・枡合:『素戔嗚尊八岐大蛇退治』
妻側前後は神話で題材を揃えています。
こちらは片山晃師の作品です。
枡合・虹梁

右面大屋根側
枡合・虹梁:『義経八艘飛び』
大屋根側の枡合・虹梁はいずれも山本陽介師の作となっています。

右面小屋根側
枡合・虹梁:『満月に梟』
小屋根側は三枚板と一体の題材になっており、夜空が表現されています。
独特の意匠で、この地車の中でもかなり印象的な部分です。

左面大屋根側
枡合・虹梁:『巴御前乃勇姿』
大屋根の平側左右は源平盛衰記より題材を得ています。

左面小屋根側
枡合・虹梁:『三日月に蝙蝠』
木鼻

木鼻:『阿吽の唐獅子』
最前の柱に付くものは半身、中間の柱に付くものは全身が彫刻されています。
持っている蓮根は地元の特産品です。
柱巻き

全景

柱巻き:『阿吽の親子龍』
細かな彫刻を見せたい場合は人物が登場する題材にされることもある柱巻きですが、ここはあえてダイナミックに龍の彫刻が選択されました。
個人的に上地車に似つかわしい彫刻と言えば、やはり獣の彫刻ではないか。と思っているところがありますので、令和の時代にこのような立派な柱巻きの龍が誕生したことは、後の時代にも影響を与えること間違いなしだと思います。
車内虹梁

車内:『三猿』
猿だけではなく、トカゲや、木の上・奥にも動物が居ますね。
地車新調に関する綺麗な銘板が飾られています。
脇障子

脇障子:『本能寺の変・大江山の鬼退治』
脇障子は三枚板の題材に統一されています。
三枚板・角障子・縁葛

正面
三枚板・角障子:『賤ヶ岳の合戦』
縁葛:『【太平記】四條畷の戦い』
お待ちかね!三枚板です。三枚板まわりはいずれも片山晃師の作品となっています。

古い上地車ではそれぞれに三枚板を1面使って表現されるような『秀吉本陣佐久間の乱入』と『加藤清正 山路将監討取り』が贅沢に1面に凝縮されています。

まずはお馴染み、佐久間玄蕃。
大きく口を開け、棍棒を振りかざして突っ込んで行きます。
鐙の先端には虎の顔も彫刻されており、細かいですね。
佐久間玄蕃の左に平野長泰、右に脇坂安治が居ます。

別の角度からもう一枚。

ツツジに引っ掛かった清正の兜、組み合いながら崖下へ落ちていきます。

柴田勝家に最も近いところに糟屋武則が居ます。
角障子

正面
角障子:『賤ヶ岳の合戦』
向かって左が豊臣秀吉、右が柴田勝家で配置されています。
木彫会の銘・亀や蛇も隠れているので、それを探すのも楽しいところです。

左側の頂上に豊臣秀吉の姿があります。
瓢箪を組み込んだ秀吉の文字の旗もあり、分かりやすいですね。
その下には福島正則と片桐且元。

下部では加藤嘉明が応戦しています。

右の頂上には柴田勝家です。
佐久間玄蕃・加藤清正・柴田勝家は他の武将とは異なって、目が光彩まで描かれています。
数ある人形の中で、主役クラスは区別して表現されているのでしょう。

応戦する柴田軍。
三枚板・角障子・脇障子・縁葛

右面全景
三枚板・角障子・脇障子:『賤ヶ岳の合戦』
縁葛:『【太平記】櫻井の別れ』

上下に広く表現出来るのが上地車の三枚板の良いところ。角障子・脇障子も併せるとそれはもう広大なキャンバスとなります。

自ら前線に出て抵抗する織田信長、その腕・足のゴツいこと。強いのは一目瞭然で、雑兵を蹴散らしています。
口をつぐんで下からグッと睨みつけ、決死の抵抗を行っている姿が表現されています。

建屋内まで敵兵が押し寄せています。
本能寺の変ではお馴染み、森蘭丸が槍で突く場面も勿論表現されています。
角障子・脇障子

右面
角障子・脇障子:『本能寺の変』
角障子には謀反を起こした張本人、明智光秀の姿があります。
三枚板・角障子・脇障子・縁葛

左面全景
三枚板・角障子・脇障子:『大江山の鬼退治』
縁葛:『【太平記】新田義貞 稲村ヶ崎』

三枚板の大半を使って酒呑童子の巨体が表現されています。

人間と比べると大きさの違いは一目瞭然、恐ろしい顔つきです・・・

奥には小さく鯉の滝登りの表現も。
脇障子・縁葛

一つ目の鬼や三つ目の鬼、角の本数も1本~3本、様々な鬼が居ます。
勾欄合・縁葛

前方
勾欄合:『富士の巻狩り』
縁葛:『【太平記】楠木正成 兵庫にて後醍醐天皇を迎える』

右面
勾欄合:『富士の巻狩り』
縁葛:『【太平記】湊川の戦い』

左面
勾欄合:『富士の巻狩り』
縁葛:『【太平記】新田義貞 鎌倉攻め』
勾欄合は富士の巻狩り、縁葛は太平記で統一されています。
土呂幕

前方全景
浜地車の土呂幕はどれも地元に所縁のある題材で統一されています。
地元に所縁のある題材となりますと、彫刻するにあたりモデルとなるような絵画等は殆どありませんから、一から構想を練って生み出されたものになります。

前方:『住吉大神 安全を祈願』
まず、正面には古宮神社の御祭神に関連して住吉三神と神功皇后の彫刻が施されています。
少し隠れていますが、岸田恭司師の銘があります。

前方力神
妻側は両サイドに力神が取り付きます。

後方全景

後方:『茨田之堤』
後方は浮かびの瓢箪伝説が彫刻されています。
茨田堤築堤にあたり、2か所築堤に難航した場所がありました。
仁徳天皇は神からのお告げを受け、強頸と茨田連衫子の2人が人柱として川の神に捧げられることになります。
強頸は泣きながら入水して死亡しますが、茨田連衫子は瓢箪を投げ入れ、「川の神よ、自分が欲しければ瓢箪を沈めて見せよ。本当の神なら身を捧げるが、沈めることが出来なければ、偽りの神だ。」と言いました。
結果、瓢箪は沈まずに流れて行き、茨田連衫子は知恵で人柱になることを逃れた。と言うお話です。

後方力神

右面:『浜鎮座 秋季大祭』
古宮神社の秋祭りが表現されています。

武者モノとは違った非常に落ち着いた彫刻です。
蓮の葉をかき分けて進む舟の様子や川で泳ぐ水鳥、その頭上にも木々と飛び立つ鳥が表現されており、とても美しい風景が表現されています。
舟には地元特産の河内蓮根が積まれていますね。

また、太鼓を台車に乗せて曳く様子も彫刻されています。
浜では現在、先代地車がこのような太鼓台にリノベーションされて活躍していますので、先代地車のことが現地車に彫刻されている。ということになります。

左面:『道真公 和歌を詠む』
菅原道真も古宮神社の御祭神です。

大宰府へ左遷される途中の出来事です。

有名な「東風吹かば 匂いおこせよ 梅の花 あるじなしとて 春な忘れそ」を詠んだ場面が表現されています。
キャンバスいっぱいに広がって(むしろはみ出て)梅の花が表現されています。
枝の表現、梅の花の開き具合も一つ一つ表情が異なり、絶妙な加減の彩色も相まって、こちらも大変美しい作品です。
台木

右面:『波濤に玄武・鯉』
台木では一種類の生き物が登場するのが常ですが、どちらも主役級である玄武と鯉の両方が登場しており、とても贅沢な作品になっています。

左面:『波濤に玄武・海老・蟹』
左面がまた面白く、他では見かけない海老・蟹が登場しています。
金具

①破風中央:『雲海に宝珠』
②破風傾斜部・端部:『昇龍・宝珠』
③垂木先:『橘紋』
④脇障子兜桁:『浜』の文字。
⑤縁葛端部:『唐草模様』
⑥肩背棒先:『浜』の文字。
銘

各所に銘が隠れていますが、分かりやすいところで正面三枚板にあります。
いかがでしたでしょうか。
素晴らしさを話し出したらキリが無いですが、とにかく言えるのは見たことが無い人は是非一度見てみてください!と言うことです。
植山工務店×岸和田木彫会により生み出された純国産だんじり、これからも浜地車の価値は上がる一方間違いなしですね。
当日暖かくお声かけいただき、快く掲載の許可をいただきました浜の皆様、ありがとうございました。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
ややこしい質問すみません。平成元年に太鼓正より彫忠の地車を購入。とありますが、彫忠というだんじりの工務店?と、太鼓正さんはどういうつながりがあるのでしょうか?また、彫忠さんはどういう会社なのでしょうか?現在曳行されている彫忠製のだんじりを教えていただけると幸いです。
ガラケーさま
彫忠は八尾市太田新町にあった工務店で、田中忠師が大工・彫刻共に手掛けて地車・布団太鼓を製作されていましたが、現在は閉業されています。
太鼓正は太鼓店ですのでメインの商材は太鼓ですが、だんじり・神輿・飾り等幅広く祭用品を取り扱われており、だんじりは彫忠で製作されたものを店舗に併設の工房で展示・販売されています。
彫忠製の地車は数えだしたらキリが無い話で、かなり広範囲に点在しています。
集まって存在している数少ない地域として、八尾市太田八幡宮の祭礼や堺市登美丘地区があり、比較的見物しやすいところではあります。