大阪市福島区野田恵美須神社 野田恵美須神社地車中

皆さんこんにちは。

前回、川原啓秀師の作品として神戸市住之江區地車をご紹介しましたが、川原啓秀師繋がりで、もう一台記事にしておきたいと前々から思っていた地車がありましたので、今回記事にしたいと思います。

野田恵美須神社の地車は、岸和田老舗の地車大工【絹屋】の絹井楠次郎師と井波彫刻の巨匠の川原啓秀師のコンビにて製作された、銘車と名高い1台です。
立派な地車が誕生した背景には、元々野田恵美須神社の氏子地域に存在した4台の地車(堤の町・北の町・大野町・奥の町)が老朽化していたため、4町の有志で地車講を結成し、1台の地車を製作した。という経緯があります。

それではご覧ください。

大阪市福島区野田恵美須神社 野田恵美須神社地車中

◆地域詳細
宮入:野田恵美須神社
小屋所在地:神社境内

◆地車詳細
形式:大阪型
製作年:1932年(昭和7年)3月
大工:絹井楠次郎
彫刻:川原啓秀

姿見

左が前方、右が後方。

絹屋がこの世に生み出した上地車は3台(昭和5年製作の泉大津市元町先代、昭和7年製作の大阪市野田恵美須地車・神戸市篠原地車)ありますが、そのうちの貴重な1台です。

側面より

大型で彫刻が豊富な地車ですので、存在感は抜群です。
勿論、大型の地車が増えた現代においても、この地車が持つ迫力・貫禄は増す一方ですね。

組物はありますが、6本の通し柱で、勾欄がぐるりと四周を囲い、大屋根と小屋根の段差が小さい大阪型の姿見をしています。

斜め前より

盛り沢山の彫刻をしっかりと見せるためでしょうか、幕・金綱のみのあっさりとした飾りつけで、極力彫刻を隠さないように取り付けられています。

破風

ややテリが効いた形状をしており、鬼板・懸魚・桁隠しのバランスが良く、非常に美しい姿見を得ています。

枡組

3段2手先で組まれており、枡には黒檀が使用されています。

鬼板

上から
大屋根前方:『獅子噛』
大屋根後方:『獅子噛』
小屋根:『獅子噛』

3面とも獅子噛で統一されています。
荒々しく強い獅子噛と言うよりは、整った美形の獅子噛で、何度見ても見飽きない、惚れ惚れする作品です。

箱棟

箱棟:『龍・唐獅子』

箱棟にも立派な作品がありました。
普段は箱棟に3枚も写真を使わないのですが、是非とも大きく見て頂きたいと思いましたので・・・

大屋根側:『龍』

小屋根側:『唐獅子』

懸魚・桁隠し

大屋根側
懸魚:『猿に鷲』
桁隠し:『麒麟』

小屋根側
懸魚:『鳳凰』
桁隠し:『朱雀』

懸魚・桁隠しは獣の題材で統一です。

車板・枡合・虹梁

大屋根前方
車板・枡合・虹梁:『鯛を釣る恵美須神』

前方の最も目立つ場所に野田恵美須神社の御祭神である、えびす様が採用されています。

虹梁に鯛を配置し、車板・枡合を一体化させて、えびす様を表現しています。
車板と枡合を一体化させるにあたり、桁を破風形状に沿わせて途中で切る細工が行われており、籠彫りで牡丹が表現されています。

小屋根
車板:『宝珠を掴む青龍』

枡合・虹梁

右面大屋根側
枡合:『龍』
虹梁:『難波戦記』

小屋根にも枡合はありますが、三枚板の題材を構成する一部として使われていますので、大屋根側のみの紹介となります。

左面大屋根側
枡合:『龍』
虹梁:『難波戦記』

虹梁は中村右近の力戦・岡部大学の勇戦と云われていますが、元となる絵画等は見つけることが出来ませんでした。
右下・左下に文字が書けそうな場所があるので、昔は墨書きがあったのかもしれません。

木鼻

上が右面、下が左面。
木鼻:『阿吽の唐獅子』

大屋根側にのみ取り付きます。前方が半身彫刻、後方が全身彫刻です。

車内虹梁

車内虹梁:『牡丹に唐獅子』

柱巻き

柱巻き:『塙団右衛門の勇戦』

大阪型に柱巻きは必須パーツという訳ではありません。
と、言うことは参考にした地車があるのだろうと思いますが、思いつくのは東大阪市西堤地車や柏原市円明地車でしょうか。

柱巻き:『塙団右衛門の勇戦』

こちらもこの題材で云われているようですが、元となった絵画等は見つけることが出来ませんでした。

柱巻き:『塙団右衛門の勇戦』

柱巻きと、後ほど載せる脇障子・三枚板の刀については、木製ではなく金属製となっており、拘って製作されています。

飛獅子

両方共、吽の唐獅子になっています。
すぐ下に居る大屋根後方の木鼻が両方、阿の唐獅子になっていたので、そちらと対のイメージなのでしょう。

脇障子

脇障子:『難波戦記』

三枚板・角障子

正面:『薄田隼人兼相ノ勇戦』

お待ちかね、三枚板です。
虹梁・柱巻きと題材がはっきりしない感じの紹介ばかりで申し訳なかったですが、三枚板はどれも銘板がありますので、表記の通りにご紹介します。

三枚板:『薄田隼人兼相ノ勇戦』

金棒を持って攻め入る薄田隼人。
登場人物が非常に多く、何人もの雑兵を蹴散らしている様が見事に表現されています。

角障子(後方):『薄田隼人兼相ノ勇戦』

角障子は三枚板とセットで構成されています。

右面:『後藤又兵衛基次勇戦』

三枚板:『後藤又兵衛基次勇戦』

こちらも同様に登場人物が非常に多いですが、後藤又兵衛相手にまともに戦えている人物がおらず、強さが際立つ表現がなされています。

左面:『道明寺附近 奥山出羽ノ勇戦』

三枚板:『道明寺附近 奥山出羽ノ勇戦』

東軍の武将の表現として、奥山兼清が選ばれています。

角障子(前方):『後藤又兵衛基次勇戦・道明寺附近 奥山出羽ノ勇戦』

勾欄合・縁葛

前方
勾欄合:『二十四孝』
縁葛:『【太閤記】尼崎の難』

後方
勾欄合:『二十四孝』
縁葛:『【太閤記】大徳寺焼香の場』

右面大屋根側
勾欄合:『二十四孝』
縁葛:『【太閤記】』

右面小屋根側
勾欄合:『二十四孝』
縁葛:『【太閤記】大徳寺焼香の場』

左面大屋根側
勾欄合:『二十四孝』
縁葛:『【太閤記】』

左面小屋根側
勾欄合:『二十四孝』
縁葛:『【太閤記】日吉丸 小六 矢矧橋の出会い』

勾欄合は二十四孝、縁葛は太閤記で統一されています。

腕木

腕木:『阿吽の唐獅子』

腰組

二段一手先で組まれています。
腰組があると豪華さが増して良いですね。

土呂幕

前方:『木下藤吉郎 伊藤日向守を討つ』

よく見かける藤吉郎初陣とは異なった表現がなされています。馬ごとひっくり返っている作品はなかなか見かけない気がします。

後方:『難波戦記』

前方ではなく後方が扉式になっており、内部にアクセスできるようになっています。

土呂幕・下勾欄合

右面大屋根側
土呂幕:『難波戦記』
下勾欄合:『波濤』

右面小屋根側
土呂幕:『難波戦記』
下勾欄合:『波濤』

左面大屋根側
土呂幕:『難波戦記』
下勾欄合:『波濤』

左面小屋根側
土呂幕:『難波戦記』
下勾欄合:『波濤』

前方以外は特定の場面を表現したものではないと思います。
どれもガラス目で良い作品です。

台木

前方:『波濤に玄武』

後方:『波濤に玄武』

斜め前より

角台木になっており、懐で梃子が差せるようになっています。
曳綱は前方妻台木の穴ではなく、写真右下の丸環を使って取り付けているようです。

右面:『波濤に玄武』

左面:『波濤に玄武』

金具

①破風中央:『唐草模様に宝珠』
②破風傾斜部:『昇龍』
③破風端部:『唐草模様』
④垂木先:『蔓柏紋』
⑤脇障子兜桁:『蔓柏紋』
⑥縁葛端:『竹に虎』
⑦肩背棒先:『蔓柏紋』
⑧台木先:『御神車講』の文字。地車講ではないあたり、いかに素晴らしいものを作ろうとしたかを推し量ることが出来ます。

いかがでしたでしょうか。

川原啓秀師の彫刻を思う存分堪能出来る、まさしく動く美術品と呼ぶべき作品ですね。
地車講の地車はなかなか見る機会が限られがちですが、野田恵美須の地車は夏祭り以外に十日えびすでも見ることが出来ますので、見学には行きやすい方かと思います。
曲がり角では助走をつけて曲がる等、勢いある曳行も見ることが出来ますので、見学がまだの方は是非。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

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